新しい「高齢社会大綱」の骨子案をみて

新しい「高齢社会対策大綱」の骨子案をみて
堀内正範
朝日新聞社社友 高連協オピニオン会員 web「月刊丈風」編集人
昨年(2011年)10月から10年ぶりに改定作業にはいっていた「高齢社会対策大綱」の骨子案ができて、内閣府高齢社会対策担当が意見募集をいたしました。(7月27日~8月5日)
骨子案ですから細部には未確定のところもあって整理までにはまだ間がある段階での公開となっています。それでも完成形としてのおおよその“樹形”は判断がつきます。
一瞥したところでは、前半の「目的及び基本的考え方」で、有識者が検討した「報告書」の趣意や他の意見(高連協1月12日「提言」など)を取り込んで、後半の「分野別の基本的施策」では前回の「大綱」の手直しがなされています。前回2001年の「大綱」がそのまま活かされるところが多いということは、内容が優れたものであることの半面で、実態として進捗が少なかったことの証でもあります。
「人生65年時代」から「人生90年時代」への高齢者意識の変革を期待し、元気な高齢者層の「社会参加」を要望しているところに内閣府高齢社会対策担当の構想力をみることができます。同じ時期に、高齢社会対策の「大綱」の見直しに関心を示さず、ありうべき「長寿社会」構想を論じることなく、「消費税増税」に終始している政治の側がいかに鈍感であり周回遅れであるかが際立つばかりです。

・・・・・・・・・・・

新しい「高齢社会対策大綱」骨子案20120806a pdf

新しい「高齢社会対策大綱」骨子案

p1 前文

第1 目的及び基本的考え方

1 大綱策定の目的

我が国は、戦後の経済成長による国民の生活水準の向上や、医療体制の整備
や医療技術の進歩、健康増進等により、平均寿命を延伸させ、長寿国のフロン
トランナーとなった。このことは、我が国の経済社会が成功した証であると同
時に、我が国の誇りであり、次世代にも引き継ぐべき財産といえる。
しかしながら、人口縮減に伴い、世界に前例のない速さで高齢化が進み、世
界最高水準の高齢化率となり、世界のどの国もこれまで経験したことのない超
高齢社会を迎えている。

・・・・・・・・・・・意見
(p1前文)
前文に、史上にまれな「平和」であることと「国際性」が欠落。
冒頭の語りかけ(文脈)は、高連協1月12日「提言」を援用したものです。「我々シニアは」を「我が国は」としたうえで、戦後の経済成長、生活の質の向上、平均寿命の伸長(延伸)、世界最高レベルの長寿(長寿国のフロントランナー)などを述べています。ただし「提言」にあるふたつの重要な観点、「平和な社会」と「モデル国」を落としています。
前世紀に経験した世界大戦の悲惨な結末にかんがみて、史上にまれな「戴白の老も干戈をみず」(老人になっても戦争を知らない)という長い「平和」の時期をすごすことができていること。また国際的に先行する「日本高齢社会」を体現している高齢者の一人ひとりが、国際的レベルの活動をし、成果を享受する姿を示すこと。そのためには、国連が前世紀末に要請した高齢者五原則「自立、参加、ケア、自己実現、尊厳」を意識して過ごしながら、新たな「モノと居場所としくみ」を案出し、高齢期を安心してすごしている実例を、「国際的モデル」として示さねばならないでしょう。

(p1本文2行目)
「長寿国」について。
「長寿国(社会)」は、平均寿命が際立って延伸する時期に、すべての世代がそれぞれの立場で参加して形成する社会。「高齢社会」は、高齢化率が際立って高まる時期に、増えつづける高齢者自身が高齢者としてつくる社会。高齢者にとって両者の関係が「長寿社会≧高齢社会」であることを意識化することも必要でしょう。
(p1本文6行目)
「超高齢社会」について。“超”高齢社会ではなく“本格的な”高齢社会であること。
「超高齢社会」は、「本格的な高齢社会」「これまでに経験したことのない高齢社会」(『高齢社会白書』)とすべき。一般的にある事象が限界点に近づいた場合を超・・と呼んでいますが、高齢化率が23%を超えた姿、三世代が六人そろっている家族は、限界点というよりもあっていいごく普通の将来の姿です。

・・・・・・・・・・・

また、戦後生まれの人口規模の大きな世代が65 歳となり始めた今、「人生
65 年時代」を前提とした高齢者の捉え方についての意識改革をはじめ、働き
方や社会参加、地域におけるコミュニティや生活環境の在り方、高齢期に向け
た備え等を「人生90 年時代」を前提とした仕組みに転換させるとともに、活
躍している人や活躍したいと思っている人たちの誇りや尊厳を高め、意欲と能
力のある高齢者には社会の支え手となってもらうと同時に、支えが必要となっ
た時には、周囲の支えにより自立し、人間らしく生活できる尊厳のある超高齢
社会を実現させていく必要がある。

・・・・・・・・・・・意見
1センテンスが8行に。~をはじめ ~とともに ~と同時に により繋いでいるために文意がとりづらい。分割すべき。「人生65年時代」から「人生90年時代」への意識改革、仕組みの転換、実現への活動を提案しています。今回の見直しの基本にかかわる記述です。

・・・・・・・・・・・

さらに、少子高齢化に伴う人口縮減に対応するためには、人材が財産である
我が国においては、今まで以上に高齢者のみならず、若年者、女性の就業の向
上や職業能力開発の推進等により、国民一人ひとりの意欲と能力が最大限に発
揮できるような全世代で支え合える社会を構築することが必要である。
このため、高齢社会対策基本法(以下「法」という。)第6条の規定に基づ
き、政府が推進すべき基本的かつ総合的な高齢社会対策の指針として、この大
綱を定める。

・・・・・・・・・・・意見
「人生65年時代」から「人生90年時代」への意識改革、仕組みの転換をしたうえで、さらに全世代で支え合える長寿社会を構築することを提案しています。

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p2

2 基本的な考え方

高齢社会対策は、法第2条に掲げる次のような社会が構築されることを基本
理念として行う。
① 国民が生涯にわたって就業その他の多様な社会的活動に参加する機会が
確保される公正で活力ある社会
② 国民が生涯にわたって社会を構成する重要な一員として尊重され、地域社
会が自立と連帯の精神に立脚して形成される社会
③ 国民が生涯にわたって健やかで充実した生活を営むことができる豊かな
社会
これらの社会の構築に向け、以下に掲げる6つの基本的考え方に則り、高
齢社会対策を進める。

(1)「高齢者」の捉え方の意識改革

高齢者の健康や経済的な状況は多様であるにもかかわらず、一律に「支え
られる」人であるという認識と実態との乖離をなくし、高齢者の意欲や能力
を活かす上での阻害要因を排除するために、高齢者に対する国民の意識改革
を図る必要がある。
また、1947 年から1949 年に生まれ、社会に対して多大な影響を与え得る
世代であると考えられる団塊の世代が2012 年から65 歳となり、2012 年か
ら2014 年に65 歳以上の者の人口が毎年100 万人ずつ増加するなど高齢者層
の大きな比重を占めることになる。このため、これまでに作られてきた「高
齢者」像に一層の変化が見込まれることから、意識改革の重要性は増してい
る。このため、高齢者の意欲や能力を最大限活かすためにも、「支えが必要
な人」という高齢者像の固定観念を変え、意欲と能力のある65 歳以上の者
には支える側に回ってもらうよう、国民の意識改革を図るものとする。

・・・・・・・・・・・意見
(p2本文17行目)
先の大戦後の1947 年から1949 年生まれの「団塊の世代」が、2012 年から65 歳となり、2012 年から2014 年(2015年も)には毎年200 万人ずつが高齢者の側に移ります。高齢者のうち毎年100万人余が亡くなりますから、増加するのは100万人ですが、高齢者層のうちの大きな比重を占めることになり、際立った影響をもたらすことは確かです。

・・・・・・・・・・・
(p2本文最終行)
支える側に回ってもらうよう、国民の意識改革 → 「支える側の高齢者」(報p14本文17行目)あるいは「支える役割を担っている高齢者」(報p8本文うしろから5行目)としての国民の意識改革  とすべきではないか。「支える側に回ってもらう」という表現では握力が弱い。「支えが必要な人」に対して「支える側の高齢者」あるいは「支える役割を担っている高齢者」として意識してもらうことが必要です。

・・・・・・・・・・・

p3

(2) 老後の安心を確保するための社会保障制度の確立

社会保障制度の設計に当たっては、国民の自立を支え、安心して生活がで
きる社会基盤を整備するという社会保障の原点に立ち返り、その本源的機能
の復元と強化を図るため、自助・共助・公助の最適バランスに留意し、自立
を家族、国民相互の助け合いの仕組みを通じて支援することとする。
また、格差の拡大等に対応し、所得の再分配機能の強化や子ども・子育て
支援の充実を通じて、全世代にわたる安心の確保を図るとともに、社会保障
の機能の充実と給付の重点化、制度運営の効率化を同時に行い、税金や社会
保険料を納付する者の立場に立って負担の増大を抑制することにより、国民
一人一人の安心感を高め、持続可能な社会保障制度の構築を図るものとする。
その際、年齢や性別に関係なく、全ての人が社会保障の支え手であると同時
に、社会保障の受益者であることを実感できる制度を確立する。

(3) 高齢者の意欲と能力の活用

高齢期における個々の労働者の意欲・体力等には個人差があり、家庭の状
況等も異なることから、雇用就業形態や労働時間等のニーズが多様化してい
る。意欲と能力のある高齢者の、活躍したいという意欲を活かし、年齢にか
かわりなく働くことができる社会を目指すために、多様なニーズに応じた柔
軟な働き方が可能となる環境整備を図るものとする。
また、生きがいや自己実現を図ることができるようにするため、様々な生
き方を可能とする新しい活躍の場の創出など社会参加の機会の確保を推進
することで、高齢者の「居場所」と「出番」をつくる。
さらに、今後、高齢者の意欲と能力が最大限発揮されるためには、高齢者
のニーズを踏まえたサービスや商品開発の促進により、高齢者の消費を活性
化し、需要面から高齢化に対応した産業や雇用の拡大支援を図るものとする。

・・・・・・・・・・・意見
日本の高齢者層が置かれている特殊な事情に少し触れた方がいい。今世紀にはいって際立っているアジア地域の経済発展(暮らしの近代化)は、先行してきた日本からの技術ノウハウ・資金・人材の進出(移動)によってもたらされたということ。それは日本の高齢者(熟練技術者)の立場からすれば、「列島総不況」(高齢熟練技術者リストラ)に遭遇して職場を失うとともに、日本ブランドの途上国製「百均商品」(粗悪日用品)にさらされるという“二重の渋滞”を余儀なくされてきたといえます。が、アジア諸国のほどほどの“日本化”が進むとともに、「団塊の世代」700万人の高齢者側への移入によって、多様なニーズと商品レベルをもとめるシニア市場が登場してきつつあります。「モノ(機器・設備・施設)」やサービスなどの面で、高齢期の暮らしを豊かにする経済活動(日本の“途上国化”からの回復)が活発化することになると想定されます。高齢者は需要者であるとともに企画・生産者でもあること、つまりシニア市場の現役としての活動が本格化することになります。

・・・・・・・・・・・

p4

(4)地域力の強化と安定的な地域社会の実現

地域とのつながりが希薄化している中で、高齢者の社会的な孤立を防止
するためには、地域のコミュニティの再構築を図る必要がある。また、介護
の面においても、高齢化が進展する中で核家族化等の世帯構造の変化に伴い、
家庭内で介護者の負担が増加しないように介護を行う家族を支えるという点
から、地域のつながりの構築を図るものとする。地域のコミュニティの再構
築に当たっては、地縁を中心とした地域でのつながりや今後の超高齢社会に
おいて高齢者の活気ある新しいライフスタイルを創造するために、地縁や血
縁にとらわれない新しい形のつながりも含め、地域の人々、友人、世代や性
別を超えた人々との間の「顔の見える」助け合いにより行われる「互助」の
再構築に向けた取組を推進するものとする。また、地域における高齢者やそ
の家族の孤立化を防止するためにも、いわゆる社会的に支援を必要とする
人々に対し、社会とのつながりを失わせないような取組を推進していくもの
とする。さらに、高齢者が安心して生活するためには、高齢者本人及びその
家族にとって、必要な時に必要な医療や介護が受けられる環境が整備されて
いるという安心感を醸成し、地域で尊厳を持って生きられるような、医療・
介護の体制の構築を進める必要がある。

・・・・・・・・・・・意見
(p4本文5行目)
地域コミュニティの再構築に当たっては → 地域コミュニティの再構築による地域力の強化に当たっては  報p18本文21行目など。見出しにある「地域力の強化」を本文のなかでもしっかり表現するほうがいい。

・・・・・・・・・・・

(5)安全・安心な生活環境の実現

高齢者にとって、日常の買い物、病院への通院等、地域での生活に支障が
生じないような環境を整備する必要があり、それを可能とするバリアフリー
などを十分に進めるとともに、子育て世代が住みやすく、高齢者が自立して
健康、安全、快適に生活できるような、医療や介護、職場、住宅が近接した
集約型のまちづくりを推進するものとし、高齢者向け住宅の供給促進や、地
域の公共交通システムの整備等に取り組む。また、高齢者を犯罪、消費者ト

p5

ラブル等から守り、高齢者の安全・安心を確保する社会の仕組みを構築する
ために、地域で孤立させないためのコミュニケーションの促進が重要であり、
高齢者が容易に情報を入手できるように、高齢者にも利用しやすい情報シス
テムを開発し、高齢者のコミュニケーションの場を設ける必要がある。

(6)若年期からの「人生90 年時代」への備えと世代循環の実現

高齢期を健康でいきいきと過ごすためには、若い頃からの健康管理、健康
づくりへの取組や生涯学習や自己啓発の取組が重要である。また、男性にと
っても女性にとっても、仕事時間と育児や介護、自己啓発、地域活動等の生
活時間の多様でバランスのとれた組み合わせの選択を可能にする、仕事と生
活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の推進を図るものとする。また、高齢
期における経済的自立という観点からは、就労期に実物資産や金融資産等の
ストックを適正に積み上げ、引退後はそれらの資産を活用して最後まで安心
して生活できる経済設計を可能とする取組を図るものとするとともに、高齢
者の築き上げた資産を次世代が適切に継承できるよう、社会に還流できる仕
組みの構築を図るものとする。
なお、非正規雇用の労働者は正規雇用の労働者と比べ、教育訓練の機会が
少ないため職業能力の形成が困難であり、かつ雇用が不安定で、相対的に低
賃金であるなど、資産形成が困難であるため、非正規雇用の労働者に対して
は、雇用の安定や処遇の改善に向けて、社会全体で取り組むことが重要であ
る。

・・・・・・・・・・・意見
(p5本文15行~19行)
なお、非正規雇用の労働者は~社会全体で取り組むことが重要である・・。 この文章を「第1 目的及び基本的考え方」の結語とするのはよくないのではないか。ここは「社会に還流できる仕組みの構築を図るものとする。」を引き継いで、「人生90年時代」を構成する三世代(~30歳、~60歳、~90歳)が、それぞれの立場からお互いに考慮・配慮しながら、「日本長寿社会」をともに考え、形成していくことが重要であるといった内容で終わるほうがいいところです。

・・・・・・・・・・・

p6 これ以降は現段階での意見は差し控えます。

第2  分野別の基本的施策

上記の高齢社会対策の推進の基本的在り方を踏まえ、下記のとおり6つの分野
別の基本的施策に関する中期にわたる指針を次のとおり定め、これに沿って施
策の展開を図るものとする。

・・・・・・・・・・・意見
(p6本文1行目)
下記のとおり6つの分野別の  → 就業・年金、健康・介護・医療、社会参加・学習、生活環境、高齢社会に対応した市場の活性化、全世代が参画する超高齢化に対応した基盤構築  を煩雑でも入れること。

・・・・・・・・・・・

1 就業・年金等分野に係る基本的施策

・・・・・・・・・・・

前回は「就業・所得」

・・・・・・・・・・・

(1)全員参加型社会の実現のための高齢者の雇用・就業対策の推進
ア 年齢にかかわりなく働ける社会の実現に向けた取組
イ 多様な形態による雇用・就業機会の確保
ウ 高齢者等の再就職の援助・促進

p7

エ 起業の支援
オ 知識、経験を活用した65 歳までの雇用の確保

(2) 勤労者の生涯を通じた能力の発揮

ア 勤労者の職業生活の全期間を通じた能力の開発
イ ゆとりある職業生活の実現等
ウ 職業生活と家庭生活との両立支援対策の推進
エ 多様な勤務形態の環境整備

(3) 公的年金制度の安定的運営

ア 持続可能で安定的な公的年金制度の確立
イ 低年金・無年金問題への対応
ウ 働き方やライフコースの選択に中立的な年金制度の構築
エ 年金記録問題への対応・業務運営の効率化

(4) 自助努力による高齢期の所得確保への支援

ア 企業年金制度等の整備
イ 退職金制度の改善
ウ 高齢期に備える資産形成等の促進

p8

2 健康・介護・医療等分野に係る基本的施策

・・・・・・・・・・・

前回は健康・福祉

・・・・・・・・・・・

(1)健康づくりの総合的推進

ア 生涯にわたる健康づくりの推進
イ 健康づくりの施設の整備等
ウ 介護予防の推進

(2) 介護保険制度の着実な実施

(3) 介護サービスの充実

p9

ア 必要な介護サービスの確保
イ 介護サービスの質の向上
ウ 認知症高齢者支援施策の推進

(4) 高齢者医療制度の改革

ア 高齢者医療制度の見直し
イ 地域における包括的かつ持続的な在宅医療・介護の提供

(5) 住民等を中心とした地域の支え合いの仕組み作りの促進

ア 地域の支え合いによる生活支援の推進
イ 地域福祉計画の策定の支援

p10

3 社会参加・学習等分野に係る基本的施策

・・・・・・・・・・・

前回は学習・社会参加

・・・・・・・・・・・意見
前の大綱が「学習・社会参加」としていたものを「社会参加活動や学習活動を通じて」としたことに、地域社会の現状変革に対する高齢者参加への期待が示されています。個人の生きがい学習のニュアンスが強く固定化されている「生涯学習」に対して、新しい知識や技術を習得してまちづくりや社会参加に活かす学習が要請されていることに10年の変化をみることができます。とくに60歳以上を資格者とし、まちづくりの高齢者を養成する「地域大学校」などは、高年期に必要な知識や技術を得るとともに、生涯にわたる同好の士を得ることで個人に生きがいを与え、自治体に積極的な参加者が見込まれることから、さまざまな試みがなされています。

・・・・・・・・・・・

(1)社会参加活動の促進

ア 高齢者の社会参加活動の促進
イ 「新しい公共」の担い手の活動環境の整備

(2)学習活動の促進

ア 学習機会の体系的な提供と基盤の整備
イ 学校における多様な学習機会の提供
ウ 社会における多様な学習機会の提供

p11

エ 勤労者の学習活動の支援

p12

4 生活環境等分野に係る基本的施策

・・・・・・・・・・・

前回は生活環境

・・・・・・・・・・・

 (1)豊かで安定した住生活の確保

ア 次世代へ継承可能な良質な住宅の供給促進
イ 循環型の住宅市場の実現
ウ 高齢者の居住の安定確保

・・・・・・・・・・・意見
「住宅」は、わが家三代の暮らしの知恵を伝承するたいせつな場であり、人生の成果を確認する場でもあります。子育てのあとの高齢期の孫育てにも配慮して、プライバシーを確保しつつ三世代同居が可能な住宅が「日本標準住宅」として指向されていいくらい。その視点を無視した財産としての住宅価値が述べられることには違和感があります。

・・・・・・・・・・・

p13

(2)ユニバーサルデザインに配慮したまちづくりの総合的推進

ア 高齢者に配慮したまちづくりの総合的推進
イ 公共交通機関のバリアフリー化、歩行空間の形成、道路交通環境の整備
ウ 建築物・公共施設等の改善

(3)交通安全の確保と犯罪、災害等からの保護

ア 交通安全の確保
イ 犯罪、人権侵害、悪質商法等からの保護
ウ 防災施策の推進

(4)快適で活力に満ちた生活環境の形成

ア 快適な都市環境の形成
イ 活力ある農山漁村の再生

p14

5 高齢社会に対応した市場の活性化と調査研究推進のための基本的施策

・・・・・・・・・・・

前回は調査研究等の推進

・・・・・・・・・・・

(1)高齢者向け市場の開拓と活性化

ア 医療・介護・健康関連産業の強化
イ 不安の解消、生涯を楽しむための医療・介護サービスの基盤強化
ウ 地域における高齢者の安心な暮らしの実現

(2)超高齢社会に対応するための調査研究等の推進と基盤整備

ア 医療イノベーションの推進
イ 高齢者に特有の疾病及び健康増進に関する調査研究等
ウ 高齢者の自立・支援等のための福祉用具等に関する研究開発
エ 情報通信の活用等に関する研究開発
オ 高齢社会対策の総合的な推進のための政策研究

p15

6 全世代が参画する超高齢社会に対応した基盤構築のための基本的施策

・・・・・・・・・・・

前回はなし

・・・・・・・・・・・

 (1)全員参加型社会の推進

ア 若年者雇用対策の推進
イ 雇用・就業における女性の能力発揮の推進
ウ 非正規雇用労働者対策の推進
エ 子ども・子育て支援施策の総合的推進

・・・・・・・・・・・意見
さまざまな形態の「三世代交流」の現場を創出すること。家庭内はもちろん、地域でも、企業内でも、青少年・女性・高齢者が加わって合議した製品企画があってはじめて、社会の成員を考慮しコーデネイトした生活環境が形成されます。若者によし、女性によし、高齢者によし、そのうえみんなにもよいという三世代同等多重型の「モノ・居場所・しくみ」の創出が推進されることになります。

・・・・・・・・・・・

p16

第3 推進体制等

1 推進体制

2 推進に当たっての留意事項

p17

3 大綱の見直し

本大綱については、政府の高齢社会対策の中長期的な指針としての性格にか
んがみ、経済社会情勢の変化等を踏まえておおむね5年を目途に必要があると
認めるときに、見直しを行うものとする。

・・・・・・・・・・・意見
(p17本文2行目)
おおむね5年を目途に → 10年後の成果を想定しつつ、おおむね5年を目途に  変化が想定される時期でもあり、その先に長期を想定しつつ、中期の「5年を目途」としたことで目配りがきく時間幅での継続性と次の機会が配慮されていて納得がえられる。
・・・・・・・・・・・

勝手なことをるる申し上げました。(2012・8・6 堀内)

新しい「高齢社会対策大綱」の骨子案をみて

新しい「高齢社会対策大綱」の骨子案をみて
堀内正範
朝日新聞社社友 高連協オピニオン会員 web「月刊丈風」編集人
昨年(2011年)10月から10年ぶりに改定作業にはいっていた「高齢社会対策大綱」の骨子案ができて、内閣府高齢社会対策担当が意見募集をいたしました。(7月27日~8月5日)
骨子案ですから細部には未確定のところもあって整理までにはまだ間がある段階での公開となっています。それでも完成形としてのおおよその“樹形”は判断がつきます。
一瞥したところでは、前半の「目的及び基本的考え方」で、有識者が検討した「報告書」の趣意や他の意見(高連協1月12日「提言」など)を取り込んで、後半の「分野別の基本的施策」では前回の「大綱」の手直しがなされています。前回2001年の「大綱」がそのまま活かされるところが多いということは、内容が優れたものであることの半面で、実態として進捗が少なかったことの証でもあります。
「人生65年時代」から「人生90年時代」への高齢者意識の変革を期待し、元気な高齢者層の「社会参加」を要望しているところに内閣府高齢社会対策担当の構想力をみることができます。同じ時期に、高齢社会対策の「大綱」の見直しに関心を示さず、ありうべき「長寿社会」構想を論じることなく、「消費税増税」に終始している政治の側がいかに鈍感であり周回遅れであるかが際立つばかりです。
PDF原稿 !新しい「高齢社会対策大綱」骨子案20120806

勝手なことをるる申し上げました。(2012・8・6 堀内)
 

四字熟語-創業守成

創業守成
そうぎょうしゅせい

「創業」は新たに業を起こすこと、「守成」はそれを守り通すこと。ひとつの事業を成功させ持続させるのは易しいことではない。
唐の太宗李世民からどちらがむずかしいかと問われた時、房玄齢は群雄と力して争うゆえ「創業は難し」といい、魏徴は安逸にして失うゆえ「守成は難し」と答えた。創業期から守成期にかけての課題をみていた太宗は、事業は創業より守成がさらにむずかしいという魏徴のことばに納得したようである。
魏徴は「述懐」に「中原また鹿を逐い、筆を投じて戎軒(戦いの車)を事とす」と詠んで出征している。「人生意気に感ず、功名誰かまた論ぜん」で知られるこの詩は『唐詩選』の冒頭を飾って、むしろ後世の創業者を鼓舞してきた。
「創業百年、敗家一天」も守成のむずかしさをいう。先の大戦後に創業した企業はいま半世紀を過ぎて守成期にある。百年企業として残るには、時代がおもむく安逸への流れにしっかり対処する人材が必要だろう。
『唐書「房玄齢伝」』など

月刊「丈風」 2012年7月号


月刊「丈風」
2012年7月号
 7日・小暑 22日・大暑 https://jojin.jp/542
三世代協働でつくる「日本長寿社会」が内需の要

◎緊急提案(請願)「“消費増税”論議とともに“日本長寿社会”構想を!」
https://jojin.jp/465    !緊急提案(請願)pdf
「社会保障」関連法案の審議に異議あり-民主党政権の「高齢社会対
策」担当大
臣は9人目- https://jojin.jp/504  !増税法案審議に異議pdf
◎「高齢社会対策大綱」見直しが明かす10年の無策
 https://jojin.jp/545   !大綱見直しpdf
◎高齢者 (3000万人) が「日本長寿社会」を担うとき
https://jojin.jp/546   !長寿社会を担うpdf

◎寄稿「人生2回時代におけるキャリア形成の標準モデル」岡本憲之(JT
A)https://jojin.jp/492  !「人生2回時代の標準モデル」pdf
◎まったなし「日本長寿社会」への展開 堀内正範
https://jojin.jp/429  !小論『まったなし日本長寿社会』pdf
◎特集「七十古希」 ことば・賀寿期・人名録
https://jojin.jp/547  !七十古希のことpdf
◎居場所づくり(地域大学校):兵庫県いなみ野学園
https://jojin.jp/548  !地域大学校「いなみ野学園」pdf
◎モノ:S65+ジャーナル http://super65plus.jp/jurnal/
◎現代シニア用語事典 「人生90年時代」を生きることば https://jojin.jp/412
◎高齢者(60歳以上)生年別人口・流行歌・流行語
https://jojin.jp/437  !60歳以上人口流行語ほかpdf
ご意見や資料・原稿の転送はe-mail mhori888@ybb.ne.jp  へどうぞ。
◎関連著書 『丈人のススメ  日本型高齢社会 -「平和団塊」 が国難を救う-』
256ページ 1500円(税別) 2010・7・1発刊 武田ランダムハウスジャパン
丈人は「アクティブ・シニア」(支える側の高齢者)のこと。熟年期の人びと。
平和団塊は戦後生まれ(1946~50年・1000万人)。高齢者(65歳以上)の仲間に。
◎web「月刊丈風」(じょうふう)長寿社会推進の拠点として刊行しています。
***編集人 堀 亜起良(堀内正範) 朝日新聞社社友  日本丈人の会  https://jojin.jp/  代表
e-mail  mhori888@ybb.ne.jp  tel & fax  0475-42-5673
keitai  090-4136-7811
〒 299-4301 千葉県長生郡一宮町一宮9340-8
blog  らうんじ・茶王樹・南九十九里から https://jojin.jp  2012・7・15

月刊「丈風」2012年7月号(印刷用pdf)

月刊「丈風」(印刷用pdf)
2012年7月号
  
目次    !月刊「丈風」2012年7月号目次pdf
 *****編集人 堀 亜起良(堀内正範)
朝日新聞社社友 日本丈人の会 https://jojin.jp/  代表
e-mail  mhori888@ybb.ne.jp  tel & fax  0475-42-5673     keitai  090-4136-7811     〒 299-4301 千葉県長生郡一宮町一宮9340-8
blog  らうんじ・茶王樹・南九十九里から https://jojin.jp  2012・7・15

居場所づくり(地域大学校)-「いなみ野学園」

居場所づくり(地域大学校)
「いなみ野学園」にみる高齢社会の人材養成                       
市町村合併と人材養成のかかわり
これまでの自治体合併の大義のひとつは、地域の発展を担う人材の養成にあった。
「明治の大合併」のときには、わが村の小学校が合併のシンボルとされた。村立の「尋常小学校」は子どもたちに多くの夢を与えた。その夢はいつしかお国のためとなり、半世紀の後には戦争へと子どもたちを駆り立てていったが。
(300~500戸の村に1校。教育、戸籍、徴税、土木、救済など。7万1314町村が39市1万5820町村に。明治21=1888年~明治22=1889年)。
「昭和の大合併」のときには、わが町の中学校が合併のシンボルとされた。子どもたちは町立の「新制中学校」を卒業すると、地元に残るよりも都会へ出ていって国の復興と高度成長の担い手となった。
(8000人の町に1校。教育、消防、保健衛生など。昭和28=1953~昭和31=1956年。9868市町村が3975市町村に)
さて「平成の大合併」(1000基礎自治体、12万人をめざす)で、新しい市は何を教育のシンボルにしようとしたか。合併のステップからいうと、人材教育については、単純化していえば、レベルとしては「わが市の大学校」が期待された。ただし「少子・高齢化」時代の養成対象としては、長い高齢期を地域で暮らすことになる高齢者であることも予測された。すでに先進的な「高年者大学校」の事例(兵庫県「いなみ野学園」など)はあったから、将来の地域発展のために活躍する人材を育成するために、地域性を加味したカリキュラムで構成される「地域高年者(シニア)大学校」が合併協議のなかで検討されても不思議ではなかった。
しかし財政難のもとでの合併協議の課題は、「地方分権」「生活圏の広域化」「少子・高齢化」であったものの、「少子・高齢化」については、どこも将来の社会保障サービスの低下への危惧が指摘され、生涯学習の充実とシルバー人材センターの拡充が当面の対応とされたが、「国土の均衡ある発展」から「個性ある地域の発展」(まちづくり)のための高齢者の知識・技芸を活かした養成機関の検討が広くなされることはなかった。
「平成の大合併」といわれた全国規模の市町村合併協議は、平成18(2006)年3月に一段落した。平成11(1999)年3月にあった3232の市(670)町(1994)村(568)は、平成18(2006)年3月には1821の市(777)町(846)村(198)になった。合併特例法(新法)による県主導での第2ステージがその後も続いている。
自治体合併の成果はこれからである。地域の風土・伝統の特徴を知り、それを活かした地域の再生・発展をはかるのは、どこもこれからである。そのための高齢者人材は欠かせない。地域大学校の成立の遅速は、地域発展の差となって現れるだろう。
先進的な「地域シニア大学校」の事例
まずは県レベルでの成功事例を、兵庫県が全国に先駆けて昭和44(1969)年に開設した高齢者大学校である「いなみ野学園」(加古川市)に見てみたい。
4年制の「高齢者大学講座」それに2年制の「大学院」があって、約1400人の高齢大学生が学んでいる。
中心になっているのは、4年制の「高齢者大学講座」で、生涯学習を通じて仲間づくりをするとともに、新しい生き方を創造し、地域社会の発展に寄与できるよう総合的、体系的な学習機会を提供するのが趣旨。運営は財団法人兵庫県生きがい創造協会。
資格は60歳以上の県在住者。入学金6000円、学習・教材費年額5万円(平成24年度)。障害保険2000円。
登校日は週1日、年間30回で120時間。専門学科は「園芸」、「健康福祉(健康づくり)」、「文化」、「陶芸」の4学科。専門学科別学習と教養講座を履修する。
朝の体操(9:40)からはじまり、午前は教養講座、午後は専門講座である。
学園の昼の食堂周辺は人生論に花が咲く。また週1回(水曜)はクラブ活動の日。30種余。囲碁、園芸、絵画、華道、ゲートボール、コーラス、ゴルフ、茶道、詩吟、写真、書道、水墨画、短歌、社交ダンス、テニス、能面、俳句、舞踊、盆栽、民謡、謡曲、表装、歌謡曲、探訪、英会話、グラウンド・ゴルフ、川柳、インターネット、太極拳、手描き友禅、将棋など。
「いなみ野学園」の何が優れているのかというと、専門講座の4つの学科にある。
・健康福祉科(健康づくり科)―健康な高齢者がもっている興味と実状を含めて福祉の
方に組み込む。卒業生は健常な高齢者として体の弱い人たちとの交流、ボランティア
活動に積極的に参加。高齢者が元気で活動してくれることが自治体にとって負担がな
いことになる。
・文化学科―郷土の歴史、伝統、文化を守りながら勉強する。そこで、卒業生はそれぞ
れの地元の伝統や歴史を研究し守っていくようになる。まちの年中行事が安定して遂
行されるようになる。
・園芸学科―自分の庭の草花、菜園、果樹について学ぶ。自家のことに始まり、近所、
公園と緑のまちづくりに繋がっていく。卒業生が多くなるほど街の緑が豊かになり、
大事にされるようになる。(個人も学園も収益を得る活動が可能)
・陶芸学科―手作り技術が得意な人たちによる陶芸を中心にして、他の技芸のうえでつ
ながりを形成する。さまざまな意匠の集積にあたっている。作品によって収益をうる。
(個人も学園も)
それぞれのセクションの講座を学んだ人たちは同窓生として、60歳からの“生涯の友人”をえることができる。また自治体は卒業生が多くなればなるほど「まちづくり」の人材が豊かになる。教養講座ではタカラ・ジェンヌや地元新聞の論説委員や郷土研究者を講師に迎え、税金や財産管理、予防医学など高齢者が興味を持つものをとり上げて工夫をこらしている。
個人には高年期の知識・技術の豊かな人生を、一方で自治体にはまちづくりの人材が増えることになる「いなみ野学園」方式は、単なる生きがい学習で終始している各自治体が学ぶべき先進性をみることができる。
この高齢者大学校のメッカともいうべき「いなみ野学園」にも運営のむずかしさがある。2万4000円であった学習・資料費を一気に6万円にしたところ定員割れを生じたという(24年度は5万円)。ほかの理由もあるであろうが、官民協働による文化事業として継続するためには、一般県民が期待し納得のできる公的な成果が問われることになるのだろう。
「いなみ野学園」は、1999年の「国際高齢者年」にあたって、「いなみ野宣言」(1999年11月19日)をおこなっている。日本高齢者が国際的な視点をもって活動していた「いなみ野学園」があったことは、世界に誇るべきことである。
いなみ野宣言
ここいなみ野学園に集う私たちは、本年を「国際高齢者年」とする国連決議及び高齢者のための国連原則「自立、参加、ケア、自己実現、尊厳」を認識し、「すべての世代のための社会をめざして」意識改革と社会参加及び世代間の交流を図り、共生の精神を高揚させ、希望あふれる21世紀に向けて、次の宣言を行います。
1 高齢期に対する自己及び社会一般の意識改革に努めます。
高齢期に見られる消極的で固定的な意識を改革するため、積極的に多世代との交流を深め、信頼と尊敬を得るよう、夢や生きがいを持って行動します。
2 心身ともに健康で、自立した生活づくりに努めます。
スポーツや食生活の改善を積極的に行い、自他ともに身体的、精神的に自立する健康な生活づくりに努めます。
3 新たな自己発見、自己実現をめざし、社会に貢献するよう努めます。
生涯を通じて学ぶ喜びを持ち続け、自己の可能性を発見し、自己実現に努めながら、地域の文化、伝統を大切にし、永年にわたって身につけた知恵と経験を生かして新しい社会の創造に努めます。
4 地域の人と自然との共生に努めます。
地域の人々との絆を深め、すべての世代が共生する優しい社会づくりと、美しい自然に恵まれた環境づくりに努めます。
5 英知を集め、21世紀へ夢と希望をもって行動します。
平和、平等、人権、地球環境など広く国内外の課題に目を向け、生き生きとした21世紀ビジョンを抱き、夢と希望の灯を高く揚げて行動します。
いなみ野学園ホームページ http://www.eonet.ne.jp/~inamino/guid.html

特集-七十古希

特集「七十古希」 ことば・賀寿期・人名録
[ ことば ] 「七十古希」
「人生七十は古来稀なり」と詠った杜甫の詩「曲江」から七〇歳を「古希」と呼ぶようになったという。唐代より前に何といっていたかは知らない。それでも「七十古希」はすでに一二〇〇年余の経緯をもつことばである。古来稀れなのだから七〇歳はよほど稀れだったのだろう。杜甫自身は旅先で貧窮のうちに五九歳で没している。杜甫が望んで詠ってたどりつけなかったことから「古希」がいわれ、七〇歳が長寿の証として納得されてきた。
杜甫の時代のみやこ長安は安禄山軍の侵入を受けて「国破れて山河在り、城春にして草木深し」(杜甫「春望」から)といったありさま。杜甫は意にかなわぬ日々を酒びたりで送っていたらしく、「酒債は尋常行く処に有り、人生七十は古来稀なり」(酒の付けは常にあちこちにあるけれど、あってほしい七〇歳は希にしかない)と有って困るものと望んでもかなわないものとを対比している。いまは酒もあるし古希もまれでなくなって両方がありあまる時代だからこの対比に味わいがなくても仕方がない。高級官人は七〇歳になると国中どこででも使える杖をもらって「杖国」と呼ばれたという。長安で生きた阿部仲麻呂は七〇歳を越えていたから立派な「古希杖」を拝受したことだろう。
ついでに「百齢眉寿」のこと。
「百齢」は百歳のこと。大正元年(一九一二)生まれの人がちょうど百歳である。わが国では百歳以上の人が五万人を超えてなお増えつづけており、いかに史上稀な長寿国であるかが知られる。「人生七十古来希なり」といわれ、七〇歳が長寿の証とされてきた。とすれば百歳ははるか遠い願望だったろう。「眉寿」は長寿のこと。老齢になると白い長毛の眉(眉雪)が生えて特徴となる。同じ唐の書家虞世南は「願うこと百齢眉寿」(琵琶賦)と記して百歳を願ったが、八〇歳を天寿として去った。それでも「七十古希」の杜甫は五九歳だったから、長寿への願望は遠くに置いたほうがいい。
[ 賀寿期 ]
先人は見定めえない人生の前方に次々に賀寿を設けて個人的長寿のプロセスを祝福してきました。いまも「何何先生の賀寿の会」はそれぞれに祝われています。しかし一人ひとりではなく、六〇歳以上の約三九○○万人(65歳以上は約3000万人)の高年者が多くの仲間とともに暮らして、励まし合いながら一つひとつの賀寿期を過ごして百寿期を目ざすのもいい。
***
還暦期(還暦60歳を含む。六〇歳~六九歳) 昭和二七年~昭和一八年
古希期(古希70歳を含む。七〇歳~七四歳) 昭和一七年~昭和一三年
喜寿期(喜寿77歳を含む。七五歳~七九歳) 昭和一二年~昭和八年
傘寿期(傘寿80歳を含む。八〇歳~八四歳) 昭和七年~昭和三年
米寿期(米寿88歳を含む。八五歳~八九歳) 昭和二年~大正一二年
卆寿期(卆寿90歳を含む。九〇歳~九四歳) 大正一一年~大正七年
白寿期(白寿99歳を含む。九五歳~九九歳) 大正六年~大正二年
百寿期(一〇〇歳以上)  大正元年以前
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昨年は10月4日に日野原重明さんが「百寿期」に達して話題になりました。今年は4月22日に新藤兼人さんが到達しましたが5月29日に亡くなりました。卆寿期には瀬戸内寂聴・水木しげる・鶴見俊輔さんが、傘寿期には樋口恵子・堂本暁子・岸恵子さん、石原慎太郎・五木寛之・仲代達矢さんが、そして古希期には小泉純一郎・小沢一郎・松方弘樹・松本幸四郎・青木功・尾上菊五郎さんが到達しました。七〇歳になったからといって老成することはありません。ご覧のとおりまだまだ先があります。仲間といっしょに人生の新たな経験・出会いを楽しむ日々が待っているのです。
[ 古希期の人びと ]
紹介できるのは少数ですが、これだけの優れた人びとが、長年かけてつちかった知識・技能・経験そして築き上げた人格を保って活躍している姿がみえないような社会を「本格的な日本高齢社会」というわけにはいきません。
古希期(70歳~74歳) 昭和17年~昭和13年
1938(昭和13)年  74歳
伊吹文明(1・9 政治家) 大林宣彦(1・9 映画監督) 渡辺武信(1・10 建築設計) 大津美子(1・12 歌手) 野沢那智(1・13 演出家) 和田春樹(1・13 ロシア史) 細川護煕(1・14 政治家) 石ノ森章太郎(1・25 漫画家) 松本零士(1・25 漫画家) 加藤諦三(1・26 心理学) 鶴見修治(1・29 体操) 永井多恵子(1・30 放送文化) 加藤剛(2・4 俳優) 木村太郎(2・12 ジャーナリスト) 清水哲男(2・15 詩評論) 境川尚(2・18 横綱佐田の山) 中島誠之助(3・5 鑑定家) 梅宮辰夫(3・11 俳優) 庭野日鑛(3・20 宗教家) 三澤千代治(3・29 住宅建築) 島倉千代子(3・30 歌手) 近藤昭仁(4・1 プロ野球) 内藤正敏(4・18 写真家) 三宅一生(4・22 服飾デザイン) 鎌田慧(6・12 ジャーナリスト) 下村満子(6・17 ジャーナリスト) 吉田ルイ子(7・10 ジャーナリスト) 与謝野馨(8・22 政治家) 野依良治(9・3 化学者) 堀江謙一(9・8 冒険家) 西尾勝(9・18 都市行政) 佐々木幸綱(10・8 歌人) 石井幹子(10・15 照明デザイン) 小林旭(11・3 俳優歌手) 三留理男(12・1 報道写真) 鏡山剛(11・29 横綱柏戸)
1939(昭和14)年  73歳
吉田光昭(1・1 薬学) 藤村志保(1・3 俳優) 西田佐知子(1・9 歌手) ちばてつや(1・11 漫画家) 市岡康子(1・21 映像記録) 佐々木史朗(1・22 映画・TV) 湯川れい子(1・22 音楽評論) 黒田征太郎(1・25 イラスト) 丹羽宇一郎(1・29 経営者・大使) 佐久間良子(2・24女優)高田賢三(2・27 ファッション) 西部邁(3・15  評論) 栗林慧(5・2 写真家) 山本晋也(6・16 映画監督) 加藤紘一(6・17 政治家) 鈴木忠志(6・20 演出家) 吉行理恵(7・8 詩人) 海野弘(7・10 美術評論) 中村玉緒(7・12 女優) 辺見じゅん(7・26 歌人) マッド・アマノ(7・28 パロディ) 平沼赳夫(8・3 政治家) コシノジュンコ(8・25 ファッション) 利根川進(9・5 遺伝学) 森本毅郎(9・18 キャスター)  田部井淳子(9・22 登山家) 前田又兵衛(10・7 建設) 加茂周(10・29 サッカー) 橋本照嵩(10・29 写真家) 長田弘(11・10 詩人) 徳大寺有恒(11・14  ジャーナリスト) 内田裕也(11・17 ロック) 市川猿之助(12・9 歌舞伎俳優) 小川真由美(12・11 俳優) 水森亜土(12・23 イラスト)
1940(昭和15)年  72歳
加藤一二三(1・1 将棋) 沢渡朔(1・1 写真家) 津川雅彦(1・2 俳優) 三井康有(1・2 防衛問題) 唐十郎(2・11 劇作家) 中村敦夫(2・18 俳優・政治家) 森田公一(2・25 作曲) 上条恒彦(3・7 歌手) 大空真弓(3・10 俳優) 鳥越俊太郎(3・13 ジャーナリスト) 片岡義男(3・20 作家) 志茂田景樹(3・25 作家) 本橋成一(4・3 写真家) 小林研一郎(4・9 指揮者) 村松友視(4・10 作家) 村田幸子(5・14 アナウンサー) 王貞治(5・20 プロ野球) 荒木経惟(5・25 写真家) 石弘之(5・28 環境問題) 立花隆(5・28 評論) 大鵬幸喜(5・29 大相撲) 田中尚紀(6・19 政治家) 張本勲(6・19 プロ野球) 扇田昭彦(6・26 演劇評論) 山本圭(7・1 俳優) 浅丘ルリ子(7・2 俳優) 土居まさる(8・22 キャスター) 麻生太郎(9・20 政治家) 清水旭(11・3 詩人) 池内紀(11・25 ドイツ文学) 篠山紀信(12・3 写真家) 露木しげる(12・6 キャスター)
1941年(昭和16)年 71歳
稲越功一(1・3 写真家) 天地総子(1・3 俳優) 岩下志麻(1・3 俳優) 横路孝弘(1・3 政治家) 有田泰而(1・31 写真家) 大宅映子(2・23 ジャーナリスト) 小林克也(3・27 DJ) 上原明(4・5 企業経営者) 小林忠(4・11 日本美術) 市川森一(4・17 脚本) 萩本欽一(5・7 TVタレント) 樺山紘一(5・8 西洋史) 日色ともえ(6・4 俳優) 石坂浩二(6・20 俳優) 長山藍子(6・21 俳優) 倍賞千恵子(6・29 俳優) 後藤明(7・22  アジア史 ) 柄谷行人(8・6 文芸評論) 粉川哲夫(8・15 メディア論) 安藤忠雄(9・13 建築) 大内延介(10・2 将棋) 佐藤允彦(10・6 ジャズ) 三田佳子(10・8 俳優) 砂川しげひさ(10・11 漫画家) 広瀬悦子(11・9 バイオリニスト) 坂田栄一郎(11・16 写真家) 栗本慎一郎(11・23 経済人類学)
1942(昭和17)年  70歳
落合信彦(1・8 ジャーナリスト) 角川春樹(1・8 出版) 小泉純一郎(1・8 政治家) 嵐山光三郎(1・10 作家) 中谷巌(1・22 経済理論) 須田春海(1・24 市民運動) 今井通子(2・1 登山家) 秋山亮二(2・23 写真家) 山下洋輔(2・26 ピアニスト) 李麗仙(3・25 俳優) 北の海勝昭(3・28  横綱) 林海峯(5・6 囲碁) 大竹英雄(5・12 囲碁) 小沢一郎(5・24) 三枝成彰(7・8 作曲) 佐々木毅(7・15 政治学) 松方弘樹(7・23 俳優) 松本幸四郎(8・19 歌舞伎俳優) 石井志都子(8・31 バイオリニスト) 青木功(8・31 プロゴルフ) 尾上菊五郎(10・2 歌舞伎俳優) 正田修(10・11 企業経営) 島田祐子(10・12 声楽) 日野皓正(10・25 ジャズ奏者) 浜畑賢吉(10・29 俳優) 南部鶴彦(11・6 産業組織) 寺田農(11・7 俳優) 藤井林太郎(12・16 企業経営)

高齢者(3000万人)が「日本長寿社会」を担うとき

高齢者(3000万人)が「日本長寿社会」を担うとき 
政治家の構想力不在で「日本長寿社会」は10年遅れに
わが国議会(衆議院)は、2012年6月26日、「消費増税法案」の採決をおこないました。法案の衆議院通過に安堵したのは、国民ではなく成立につとめた財務省関係議員と財務省です。新世紀このかた10年余り、史上初であり国際的にも期待されている「日本長寿社会≧高齢社会」形成への構想を、わが国議会は衆議して国民に提案し、達成への参加を呼びかけることをしませんでした。無策できた「10年の失政」を顧みることなく、増税というしわよせを国民に、とくに高齢者層に負わせようとしているのです。それは政治家の構想力の不在によりますが、いうまでもなく国民の側とくに高齢者の沈黙の結果でもあります。
先の大戦後の日本社会を、粒々辛苦して復興し発展に尽くした人びと。その人びとの高齢期の暮らしに手厚く報いる「社会保障」(「支えられる高齢者」への医療・介護・福祉)では成果を積んできましたが、史上初で国際的には新しい「日本高齢社会」形成への対策としては見るべき成果がありませんでした。みんなが安心して暮らせる「高齢化社会」としては、構想としての活動がなかったのですから成果もありません。明らかな「政治不在」です。
「わが国は世界のモデルになりうる。何もしないまま極東の片隅で、お年寄りの多い元気のない国になるかの瀬戸際だ」(野田首相)などという発言はうつろに響きます。
年ごとに増えつづけて3000万人に達した高齢者(65歳以上)は、いまやみずからを成員とする「日本長寿社会」(「支える高齢者」層の主導による三世代同等多重型社会)の充実・達成にむかわねば、政治のツケを負ったうえ、若年層からは社会への無関心を責められることになります。
このまま進めば、さまざまなしわよせが高齢者層に迫ってくることが想定されます。高齢者への敬意が薄れ、尊厳を保って晩年を過ごすことができなくなります。その対応はいまや高齢者自身が存在感を高めておこなうよりありません。

3000万人に達する高齢者

 わが国の「高齢者」(65歳以上)は、昨年9月の「敬老の日」恒例の発表によると2980万人となっており、今年は3000万人に達します。これは単にボリュームが大台に乗って存在感を増すというだけではなく、日本社会に質的な変容をもたらすという意味で注目されているのです。
すでにご承知のとおり、今年から「団塊の世代」のみなさんが「高齢者」の側に加わります。先の大戦での敗戦の後、両親から「平和のうちに生きて」という願いを託された毎年200万人余の戦後ッ子。昭和22(1947)~昭和24(1949)年に生まれた人びと。
昭和22年生まれというと、ビートたけし、星野仙一、蒲島郁夫、鳩山由紀夫、千昌夫、荒俣宏、小田和正、北方謙三、西田敏行、池田理代子さんなどで、知識も技術も芸域も充実して、各界を代表する現役の人びとです。
「ごくろうさま」と声をかけたいところですが、ここではむしろ新たな存在である「支える高齢者」として過ごしてほしいと願うところでもあるのです。
平和ではあったものの平坦ではなかった65年。戦後昭和の復興期から成長・繁栄期そして平成の萎縮期にいたるステージを体験してきてなお元気で暮らしているみなさん。長命の両親(母親のみかも)を介護して支え、子どもの住宅ローンを支え、孫の物品のめんどうをみるという家庭内でもそうですし、すでに現れはじめていますが、「シニア・ビジネス」の展開によって、シニアを対象とする本物指向のモノやサービスで内需を支えることになるからです。 

アクティブ・シニア(支える高齢者)層が登場

これまでのような「支えられる高齢者」ではなく、「支える高齢者」として、それぞれ蓄えてきた知識・技術・経験・資産そしてみんなで豊かになろうという「大同意識」を合わせ活かして、熟成期の「時めき人生」を送ること。
水玉模様のようにいくつものコミュニティに参加して、多彩に愉快に自らのライフスタイルを案出して暮らすこと。そういうアクティブ・シニアの暮らしぶりが、「長寿社会」のありようを変えていくと推測されているのです。
総不況と大災害による「平成萎縮」のあと、「支える高齢者」層が推進する「地域・職域再生」という新たな局面が登場することになります。これが各地・各界にもたらす質的な変容は、推測ではなくすでに構想の域にあります。
みんなが安心して暮らせる「長寿社会」の形成は、すべての世代(all ages)の人びとの参加によりますが、焦点を絞れば高齢者(older persons)が新たに達成する「すべての世代のための高齢社会」がその中心になります。
世界のトップランナーである日本の3000万人の参加意識をもつ高齢者が、どういう新しい社会を創出するかは、「三・一一大震災」後の復興とともに国際的にも注目されているのです。(「まったなし”日本こ長寿社会”への展開」https://jojin.jp/429 ほかから 2012・7・1)

月刊「丈風」2012年6月号


!!月刊 「丈風」2012年6月号
本文全面pdf版は「月刊丈風」8月号 「丈風」!12年8月号a をご覧ください。
2012年6月号 5日 芒種 21日 夏至   https://jojin.jp/506
 高齢者不在のまま「社会保障・税一体改革」は増税先行に
◎緊急提案(請願)「“消費税”論議とともに“日本長寿社会”構想を!」https://jojin.jp/465
◎新情報 「社会保障・税一体改革」法案審議に当たって-民主党政権での「高齢社会対策担当大臣」は9人目です-https://jojin.jp/504
◎新情報 NHK日曜討論・経済活性化の底力に「元気な高齢者」が登場 https://jojin.jp/510
◎寄稿「人生2回時代におけるキャリア形成の標準モデル」岡本憲之(JTTA)https://jojin.jp/492
◎小論「まったなし“日本長寿社会”への展開」堀内正範 https://jojin.jp/429
ここまで2012年6月号印刷用PDFファイルに  https://jojin.jp/519
◎現代シニア用語事典 https://jojin.jp/412
◎日本地域大学校名簿 https://jojin.jp/19
◎昭和シニア人名録(賀寿期5歳層別)https://jojin.jp/438
◎高齢者(60歳以上)生年別人口・流行歌・流行語 https://jojin.jp/437
◎S65+ジャーナル http://super65plus.jp/jurnal/
◎人生を豊かにする四字熟語 https://jojin.jpcategory/
ご意見や資料・原稿の転送はe-mail mhori888@ybb.ne.jp  へどうぞ。
◎関連著書 『丈人のススメ  日本型高齢社会 -「平和団塊」 が国難を救う-』
256ページ 1500円(税別) 2010・7・1発刊 武田ランダムハウスジャパン
丈人は「アクティブ・シニア」(支える側の高齢者)のこと。まだ老人と呼ばれるには間がある熟年期の人びとです。平和団塊は両親から平和に生きることを託された戦後生まれ(1946~1950年・1000万人)の人びと。高齢者(65歳以上)の仲間に加わりつつあります。
*****編集人 堀 亜起良(堀内正範) 日本丈人の会代表 朝日新聞社社友
e-mail  mhori888@ybb.ne.jp  tel & fax  0475-42-5673  keitai  090-4136-7811
〒 299-4301 千葉県長生郡一宮町一宮9340-8
月刊「丈風」 史上初、わが国独自の長寿社会推進の拠点として刊行しています。                 2012・6・12/6・26

月刊「丈風」2012年6月号(印刷用)

全面pdf版は「月刊丈風」8月号 「丈風」!12年8月号a をご覧ください。
月刊丈風6月号(印刷用)
◎目次
◎緊急提案(請願)「“消費税”論議とともに“日本長寿社会”構想を!」
◎新情報 「社会保障・税一体改革」法案審議に当たって
◎新情報 NHK日曜討論・経済活性化の底力に「元気な高齢者」が登場
!!!月刊 「丈風」2012年6月号pdf1a
◎寄稿「人生2回時代におけるキャリア形成の標準モデル」岡本憲之(JTTA)
!!!人生2回時代の標準モデルpdf1a
◎小論「まったなし“日本長寿社会”への展開」堀内正範
!!!『まったなし日本長寿社会』20120520pdf