「強い高齢社会」へのしくみづくり<2>

◎新自治体に「地域大学校」を(1)
 市町村合併を終えた新自治体のなかには、なお新住民の一体感の醸成に苦慮しているところもあると聞きます。これまでの合併の折りに、新自治体の一体感の醸成に寄与してきたのは教育機関・学校でした。
 「明治の大合併」のときには、村立の「尋常小学校」が合併のシンボルとされ、創立以来100年を越えて子どもたちに郷土への親愛の思いと多くの夢を与えてきました(明治21=1888年~明治22=1889年。300~500戸の村に1校。7万1314町村が39市1万5820町村に)。
「昭和の大合併」のときには、町立の「新制中学校」が合併のシンボルとされて、子どもたちは卒業すると、地元に残るもののほかは都会へ出ていって高度成長の担い手となりました。(昭和28=1953~昭和31=1956年。約8000人の町に1校。9868市町村が3975市町村に)
 さて「平成の大合併」で、新しい自治体は何を教育のシンボルにしようとしたでしょうか。財政難のもとでの合併協議の課題は、「地方分権」「生活圏の広域化」「少子・高齢化」でしたし、合併のステップからいうと人材教育については市立の「地域大学校」が推測されました。ただし「少子・高齢化」時代の教育対象としては、青少年ではなしに長い高齢期を地域で暮らす高年齢者であることも予測されました。すでに先進的な「高齢者大学校」の事例(兵庫県立の「いなみ野学園」など)がありましたから、将来の地域発展(再生・創生)のために活躍する人材を養成するために、地域性を加味したカリキュラムで構成する「地域大学校」が協議のなかで検討されても不思議ではなかったはずです。
 が、「少子・高齢化」については、将来の「社会保障」サービスの低下への危惧が指摘され、生涯学習の充実とシルバー人材センターの拡充が当面の対応とされましたが、「まちづくり」のための高齢者の知識・技能養成機関の検討がなされた例を聞きません。総務省主導とはいえ、かつてのように文科省が参画しなかったゆえの「世紀最大の失政」と歴史家が指摘することになるでしょう。
「平成の大合併」といわれた全国規模の市町村合併協議は、平成18(2006)年3月に一段落しました。平成11(1999)年3月にあった3232の市(670)町(1994)村(568)は、平成18(2006)年3月には1821の市(777)町(846)村(198)になりました。合併特例法(新法)による県主導の第2ステージがその後も続いていますが、全国的な関心は遠のいていきました。
 旧来の老人クラブと生涯学習ではとても求心力をつくれず、将来の姿も想像できませんし、潜在力のある高齢者のみなさんが、「まちづくり」のために新たな能力の発揮のしようもないのです。どうすべきであったか、あるべきかは、回を改めて論じます。
「s65+」ジャーナル 2011・7・5
堀内正範

丈人論-「強い高齢社会」へのしくみづくり<1>-

◎内閣府に「高齢社会対策担当大臣」(専任)を
 国際的にも注目されるわが国の「本格的な高齢社会」(高齢者が安心して暮らせる社会)を推進するには、まず国のしくみとして内閣府に「高齢社会対策担当大臣」がおり、省庁を統括して結ぶ太い動線が整っている必要があります。
 内閣が代わるごとに総理大臣によって各大臣が任命され、官邸への呼びこみ、辞令交付、そして記者会見、このところ見慣れた光景になりました。そのうちの「内閣府特命担当大臣」には兼務で政策がふりわけられます。「少子化対策」も「高齢社会対策」も、ともに省庁を越えた重要課題です。「少子化対策担当」には辞令が出て記者会見の折り意見を聞かれますが、「高齢社会対策担当」は発表されないため注目されず、だれが担当かわからないのです。
 平成7(1995)年に「高齢社会対策基本法」が成立して15年、毎年出されている『高齢社会白書』(内閣府)をみますと、最近では閣議決定時での担当大臣が野田聖子、福島みずほ、そして蓮舫大臣となっています。この顔ぶれからも、合わせて担当する「少子化対策」などに重点をおいた人選であることが推測されます。今回は「少子化対策」が与謝野馨大臣の兼務となり、少子化対策を除く「共生社会政策」が蓮舫大臣となりました。したがって「高齢社会対策担当大臣」は蓮舫議員なのです。
 6月7日(火。9:52~10:00。第4合同庁舎会見室)の記者会見で、蓮舫大臣は閣議決定したばかりの「高齢社会白書」と「子ども・若者白書」の報告をしました。が、折りから記者の質問は大連立や総理の早期退陣といった政局問題に終始し、ふたつの白書への質問はなかったようです。「高齢社会白書」の閣議決定の記事さえ出なかった新聞もあるといいます。
 こんなことでいいわけありません。
 蓮舫議員が「内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全、行政刷新)」として少子化を除く「共生社会政策」を担当し、「内閣府政策統括官(共生社会政策担当)」は村木厚子さん。そのもとに「高齢社会対策担当」参事官の小林洋子さん。若い政策調査員がいますが、「仕事と生活の調和推進室」と兼務だったりしますから、内閣府に省庁を結ぶ太い動線が整っているとはいえません。
「国及び公共団体はもとより、企業、地域社会、家庭及び個人」の相互の協力のもとに、「雇用、年金、医療、福祉、教育、社会参加、生活環境等にかかわる社会システム」を不断に見直し、適切なものとしていく(基本法の前文)ためには、専任の大臣がいて当然の時期なのです。
 まずは組閣時に「内閣府特命担当大臣(高齢社会政策担当)」の辞令を、そして専任大臣を。それを実現できるのは、長く着実に経緯を見据えてきた高連協(高齢社会NGO連携協議会)などに参加する組織や専門学者のリーダーシップであり、分厚い高齢者層の人びとの熱い支援です。
「S65+」ジャーナル 2011・6・25
堀内正範

 
 
 
 

 

丈人論-「強い社会保障」とともに「強い高齢社会」を<4>ー

◎「平和団塊」の人びとへの期待 
 6月2日、「菅内閣不信任決議案」の採決直前の民主党代議士会で、管直人首相は「一定のめどがついた段階で若い世代のみなさんにいろいろな責任を引き継いでいただきたい」といい、辞任後には「お遍路」をとまでいったのには、高齢者のみなさんは二重にあきれたにちがいありません。
 首相であることの何よりの責務は、震災後にみずからが何かを成し遂げることではなく、政界をあげて国難に当たる体制をつくることにあります。それを求める国民の声に応え得なかったことに責任があるのです。また発言にみるとおり、同世代や先輩に力不足を謝して去るのではなく、「世代交代」をということで仲間の信頼を失うことになります。もうひとつ、首相を辞したら「お遍路に」ではなく、「単身でも被災地に」というのが筋というものでしょう。
 菅氏は昭和21(1946)年10月10日生まれですから、「団塊の世代」(昭和22~24年生まれ、約700万人)には入っていませんが、しかし戦後生まれの政治家のひとりです。昭和22年には鳩山由起夫、23年には赤松広隆・舛添要一、24年には海江田万里、25年には塩崎恭久氏などがいます。
 この戦後生まれ世代(本稿では昭和21~25年生まれを「平和団塊」と呼んでいます。約1000万人)をさし置いてなぜ若い世代に引き継がせようとするのでしょう。少人数の知名な方で代表させていただいて申し訳ありませんが、昭和21(1946)年には市川團十郎(俳優)、田淵幸一(野球)、猪瀬直樹(作家)さん、22年にはビートたけし(タレント)、尾崎将司(ゴルフ)、中原誠(将棋)、北方謙三(作家)、西田敏行(俳優)、池田理代子(劇画)さん、23年には高橋三千綱(作家)、五木ひろし(歌手)、上野千鶴子(女性学)、井上陽水(歌手)、森下洋子(バレエ)さん、24年には村上春樹(作家)、武田鉄矢(歌手)、高橋伴明(映画監督)、矢沢栄吉(歌手)さん、25年には舘ひろし(俳優)、和田あき子(歌手)、坂東玉三郎(俳優)、姜 尚中(政治学)、八代亜紀(歌手)さんなどなど。知識も技術も芸域も充実して、実力に誇りをもって「熟年期」を謳歌し、「高齢化する社会」の可能性を体現している人びとがいます。
 この60歳代になった約1000万人の「平和団塊」のみなさんは、先の戦争の惨禍のあと、ご両親によって平和裏に生きることを託されて育ち、先輩とともに復興・先進国入りを成し遂げ、わが国の「平和時代」の証となる「高齢社会」の体現者として暮らしています。それは先人が願いとした「日本国憲法」の平和主義とともにふたつながら平和の証であり、国家百年の計として21世紀の日本を輝かせる歴史的モニュメントなのです。「日本高齢社会」の形成は、そのプロセスを含めて国際的にも注目され達成が期待されています。「世代交代」をいう菅直人氏は、みずからの世代の役割をあまりにも知らなさすぎるのです。
「S65+」ジャーナル 2011・6・15 
堀内正範 

 

丈人論-「強い社会保障」とともに「強い高齢社会」を<3>-

◎人生を支える三つのカテゴリー
 高齢期の人生が、先行き不明な「余生一途」ではなく、5歳きざみの年齢階層としてだれもが迎える「賀寿期(5歳層)」として、「古希期」や「喜寿期」や「傘寿期」を(女性はさらに「米寿期」が加わる)意識して、先行き愉快にすごせる「場所」や利用しやすい「モノ」の形成があっていいのです。
 そういう高齢健丈者の人生を支えるのは、「からだ、こころ(ざし)、ふるまい」という三つのカテゴリーでの活動です。「強い高齢社会」というのは、この三つそれぞれの領域で活動する高齢者が、自在に参画できる「場やしくみ」や利用しやすい「モノ」を新しく形成していくプロセスでもあります。 
1 「からだ=体・身」に関して。
 健康な「からだ」の保持はだれにとっても生涯にわたる最大の関心事です。高齢者仲間の会話は、お互いの支障(持病)の問い合いからはじまります。目や耳や歯の機能保全のことから心臓、肝臓、胃腸といった臓器の症候、各部位のがんに関する最新情報。そして薬、予防法、健康体操、ウオーキングまで、「からだ」に関する話題はつきません。食生活・衛生・医療・介護の分野の進歩と充実は、「強い社会保障」と「強い高齢社会」の基盤となっています。
2 「こころ=心・志」に関して。
 「こころ」のありよう、生きがいは人生を大きく左右します。「こころざし」として強く意識するものとそうでないものとがありますが、だれもが心の拠りどころとしての目標を持って暮らしています。人間(自己と他者)への理解の深化、蓄えてきた知識による正確でバランスよい判断や洞察、そして歴史や伝統への関心の広がり、さまざまな文化活動など、内面的な充実は人生の大きな喜びであり、「こころ」の交流の豊かさが人生の成果ともいえます。
3 「ふるまい=技・行為」に関して。
 生涯を通じてどこまでも進化する能力は、個人的には「ふるまい」として表現されます。工芸技術の練磨、芸能芸術の巧みな表現などからは、ひとつひとつ到達した「ものづくり」技術の高みや磨きあげられた「所作」の粋を知ることができます。暮らしに身近かな家庭用日用品からは、「モノ」に込められた親わしさが伝わってきます。熟達した技術が形になったさまざまな制作品は触れて快く、年を重ねて洗練された挙措ふるまいは見て美しいものです。
この三つのカテゴリーへの関心の度合いは個人によって異なりますが、「だれもが安心して暮らせる日本高齢社会」を創出するためには、この三つのカテゴリーで個性的で実現可能な目標をもちながら「素敵な高齢者」として日々を過ごす健丈な高齢者(本稿では丈人層)の存在が基本となります。そしてその総和が「日本高齢社会」の豊かさの表現となるのです。2011・6・5   s65+ジャーナル<7>

丈人論-「強い社会保障」とともに「強い高齢社会」を<2>-

◎「賀寿期」を生きる
 「強い社会保障」は現政府の主要政策ですから、大震災の影響があってもそう大きく後退することはないでしょう。それに応じて「強い高齢社会」を体現していく高齢健丈者としては、「日本高齢社会」はみずからの手で達成するという自覚を共有したうえで、存在感を明らかにしていく必要があります。
 なぜといって、アジア地域で最初の先進的な「高齢社会モデル」(モノ・場・しくみ)の創出が期待されており、自まえの経済・文化・伝統のもとで独自の手法を案出しながら形成にむかうからです。欧米の経験からえた外国モデルをもちこむような後進国的手法をとらないでいくことにしたい。
 そこで、「日本高齢社会」の体現者であることを意識するために、高齢者個人の長寿を祝う「賀寿」の慣習を、「賀寿期(5歳層)」の人生としてしつらえ直す提案をここに記しておきたいと思います。
2011年の「賀寿期(5歳層)」 
百寿期(100歳以上)  明治44年より以前   (100歳を超える)
白寿期(95歳~99歳) 大正5年~大正元年  (99歳=白寿を含む)
卆寿期(90歳~94歳) 大正10年~大正6年 (90歳=卆寿を含む)
米寿期(85歳~89歳) 昭和元年~大正11年 (88歳=米寿を含む)
傘寿期(80歳~84歳) 昭和6年~昭和2年  (80歳=傘寿を含む)
喜寿期(75歳~79歳) 昭和11年~昭和7年 (77歳=喜寿を含む)
古希期(70歳~74歳) 昭和16年~昭和12年(70歳=古希を含む)
還暦期(60歳~69歳) 昭和26年~昭和17年(60歳=還暦を含む)
・平成23年は大正100年、昭和86年に当たります。 
・戦後生まれ(昭和21年~25年。平和団塊)の人びとが還暦期に加わりました。
「賀寿」というのは、高齢期を過ごす人にとっては長寿へのステップ(一里塚)です。かつて幼いころに小学校に入り、中学校、高等学校と過ごして、大学で「社会人」としての準備を終えるという成長期の階層を刻んだように、「賀寿期」を5年ごとの階層として、日本伝来の慣習を熟年期を過ごす人生に活かそうという呼びかけなのです。
「老成一途」(余生)に漫然とすごす「老人」ではなく、日また一日を先方を見据えて「高齢社会」を築いている人びと(本稿では漢字表現として納得できる古語を援用して「丈人」と呼んでいます)。偉丈夫あるいは大丈夫といった高齢健丈者の姿は、TV画面や街なかや農村や漁港の海辺などでもよく見かけます。地方自治体の市町村長にも「老人」というより「丈人」と呼ぶにふさわしい頼り甲斐のある人が多く、被災地の町長さんや村長さんにも好例の方を見受けます。 2011・5・25

丈人論 ―「強い社会保障」とともに「強い高齢社会」を<1>―

 2011・5・15 
◎高年期のライフサイクル 
 現代のわれわれからみても、「われ十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順(したが)う。七十にして心の欲するところに従って矩(のり)を踰(こ)えず」(『論語「為政篇」』から)と、みずからの人生を顧みた孔子のライフサイクルは、2500年後の今日でもおよそのところ納得されています。
 現代風にわかりやすく表現すると、「志(目標)をもって学んで三十歳で社会参加・労働参加し、五十歳代で成果を確かめて、六十歳でお互いの生き方の相違を認めつつ七十歳代で自己実現を図る」ということであり、「余生」とは遠い前向きな姿勢で顧みています。孔子は73歳で亡くなりましたから80歳、90歳がないのは残念ですが。
「強い地域高齢社会」を達成するためには、数多くの強い高齢者がそれも全国各地に広く等しく「高年期」を意識して暮らしていることが必要な条件になります。そのためにはこれまでの発達心理学による若年層に手厚い分類とは異なる「日本高齢社会」に見合った「高年期のライフサイクル」が共有され、日々の活動を支えていることがたいせつです。
「青少年期」    ~24歳 自己形成期 第1ステージ 2977万人
       (25歳~29歳 次期へのバトンゾーン)    743万人
「中年期」  30歳~54歳 社会参加期 第2ステージ 4252万人
       (55歳~59歳 次期へのバトンゾーン)   864万人
「高年期」  60歳~84歳 社会参加と自己実現期 第3ステージ  3574万人 
「長命期」  85歳~    自己実現期          394万人
         (平成22年11月1日現在確定値。総務省「人口推計」から)
 とくにこの「第3ステージ」を意識した高年者層が「高齢社会」を担う主体者として姿が明確にすることで、高齢弱者を支える「二世代+α型」の「強い社会保障」とともに多重標準としての「三世代同等型」の「強い高齢社会」が合わせて形成されていきます。各地にさまざまな「高年者コミュニティー」が創出され、活動が広がり、優れた技術による「高年者用品」が熟練技術者によって案出されることになります。生活意識の高いこの国の高齢者がいつまでも途上国製の「百均商品」に埋もれて暮らすとは考えられません。
これが内需の要であり、若手政治リーダーが「内需はもうだめだから」などと発言するのはもってのほかのことなのです。(次回5月25日)

丈人論 ―大震災を越えて「強い高齢社会」をつくろう<4>―

2011・5・5 
◎地域の特徴を活かす
 桜前線が東北地方の被災地を通過しています。しかし満開の桜花のもとを訪れる人は例年の1割程度といいます。自然の恵みと猛威。天恵と天災。どちらもこの国の先人は畏敬の念をもって受け入れてきました。
 先の「戦後復興」(第2の国難期)を経験し、営々として築いてきた65年の蓄積を一瞬のうちに失った被災地の高齢者のみなさんは、いまが「第3の国難期」(地域社会と家庭の危機)であるともっとも強く実感しているに違いありません。全国の高齢者は、それを共有し支援することになるでしょう。
 何をどうするのか。前回記したように、長く保持してきた知識、技術、資産を投入して、地域・職域のあらたな改革(みずからが安心して暮らせる「地域高齢社会」の形成と熟練した技術を駆使した「高齢者用品」の製造)に努めること。それが大増税を避けるため国民全員で負担する「災後復興」の課題です。
 復興の契機が「地域の四季」にあるといったら唐突で言い過ぎでしょうか。
「文明開化」(第1の国難期)以来、日本近代化の一五〇年は、ひたすらな欧米追随でした。性急でひたむきだった暮らしの洋風変容。そのかぎりでは追いついても追い越すことはできません。最良の模倣までです。であるとすれば、これからこの国で暮らす者に恵みをもたらすものは何か。失われていったものを顧みると、「地域特性」と「季節感」つまり「地域の四季の暮らし」にかかわる「モノ・場・しくみ」であったものが多いことに気づきます。
身近なところでは、たとえば風鈴、うちわ、桐下駄、足袋、和服、和だんす、神だな、床の間、和風住宅、方言、女性名の「子」、ヒバリやカエルの鳴き声、安心して歩ける小路、よろずや、商店街・・。
 夏の電力省力をクールビズでというのでは論外です。「常春型(エアコン)」住宅指向から「四季型(通風)」住宅への回帰という改革意識を見失ってしまいかねません。古来、わが国の住宅は「地方性」を活かした素材や様式をもち、「季節感」を巧みに取り込みながら、一年を通じて過ごしやすい工夫をこらした「四季型(通風)住宅」でした。いまでも古都の町屋や各地の古民家で、「風土になじんだ住居の心地よさ」を体験できます。
 駆け抜けてきた「戦後昭和時代」に軽視・黙視してしまったもの。それらの姿は高齢期を過ごしているみなさんの胸の中に「なつかしい体験」として記憶されているはずです。その復興活動の一翼を担うのは「65歳+」の高齢者であるわれわれです。失われた「地域の四季」の回復を通じて、新たな内需のありようが見えてくるはずです。(次回5月15日)

丈人論 ―大震災を越えて「強い高齢社会」をつくろう<3> ―

 
2011・4・25 
◎「災後復興」の課題を担う 
 東北地方被災地の高齢者の心には、なんとか元にもどしたいという願いとそんなに頑張ってどうするという思いが交錯するといいます。陸地に打ち上げられて大破した船の傍らで、「漁をするより能のない人間だから海にもどりたい」とつぶやく高齢漁師。農地でも商業地でも、黙々と後片づけにむかう人の中に「天災人禍」という二度の災禍の復興に出会った高齢者の姿があります。
 ここで繰り返して確認しますが、「本格的な高齢社会」というのは「病者や要介護者といった高齢者が多くなる社会」ではなく、「元気な高齢者が体現して参画する新しい社会」のことです。もちろん前者をふくめてですが。ですからいまこそ、政治リーダーにはそういう将来の国(地域)の姿を構想し、国民(地域住民)にむかって達成を求める責務があります。ところがなんとしたことか、政権党になった民主党の「マニフェスト」にはそういう視座がまったくありません。ですから参画しようにも高齢者のわれわれには何のメッセージ性もないのです。
 鳩山首相は「いのちを、守りたい」と訴えた「施政方針演説」で、「ひとり暮らしのお年寄りが誰にもみとられずに死を迎える」いたましい事例を取り上げましたが、ご自分が属する「高齢社会」への参画を呼びかける発言はしませんでした。すぐれた厚生大臣であった菅首相は「高齢者は社会の被扶養者」とする政策を引き継ぎ、「強い経済、強い財政、強い社会保障」といいきっています。「福祉・介護・医療」を軸にした高負担の政策がつづかないことに気づきながら、「健丈な高齢者が参画する地域の形成」を軸とする「強い高齢社会」政策の不在が、国民の信頼を失ってきたことに気づいていないのです。
 いま65歳を中心とする50歳から80歳までの中高年者(4800万人)が形成する地域・職域コミュニティーをみんなで構想し、それぞれが保持している知識や技術や資産を有効に活用して、高齢者自身が用いやすい新たな「モノや用具や設備」を工夫し、「居場所や施設」をつくること。力を合わせて三世代がそれぞれに地域の四季を安心して暮らせる「三世代同等型の社会」を築くことが急務とされているのです。
 大震災の復興に努めている高齢者のみなさんとともに全国の地域・職域のあらたな変革に参画すること、それが大増税を避けるため国民全員で負担する「災後復興」の課題です。その活動の中心になるのが「65歳+」の高齢者であるわれわれです。(次回5月5日)
 

丈人論 ―大震災を越えて「強い高齢社会」をつくろう<2>―                       

2011・4・15 
◎わが国の高齢者の役割 
 
年齢にかかわらず「自分は高齢者」と思っている人のうち80%までは元気に暮らしており、「リタイア」後も何らかの社会参加を望んでいます。それは仲間とともに65年をかけて創りあげてきた社会に親しみを持っており、さらに住み良くなることを希っているからです。これまでに培ってきた知識や経験や技術や資産を用いて、地域や職域での新たな「しくみづくり」「居場所づくり」「モノづくり」といった活動に参画する意欲を保っている証しです。
 大震災によってみずから築いてきたものすべてを失ってしまった東北地方の被災者の姿をみて、「がんばろう日本」とか「日本の力を信じてる」という声より先に、仲間のために具体的な支援に動いた人びとも多くいます。新たな出発に当たって、「65歳+」の人びとの参画は、この国の復興と創造を通じて、手つかずだった「高齢社会」の形成を進めることになります。わが国は世界一の長寿国です。65歳以上の人口比である「高齢化率」が21%を越えると国際基準では「超高齢社会」(本格的な高齢社会)と呼びますが、世界最速で高齢化が進んだわが国は、すでに23%(世界一)に達しています。
 「超高齢社会」を体現するのは、高齢者であることを自覚した65歳以上の高齢者の生き方です。2割ほどの医療・介護を要する仲間をかかえながらも、多くは健丈のうちに、青少年期・中年期にいる次世代の人びととともに、「人生の第3ステージ」である高年期を過ごしています。元気で暮らすわが国の高齢者が、世界の友人たちの支援と期待に応えて、独自の手法でどのような「日本型高齢社会」を創出するかが国際的に注視されているのです。
 ここで何よりたいせつなことは、後進の人びとの支援を受けて「強い社会保障」といった負担を期待して余生を送るこれまでの「2世代+α(アルファ)型」の受け身の暮らし方を改める時期にあることです。逆に後進の人びとの支援をしながら、史上に新たな「強い高齢社会」をめざすことにあります。
「高齢社会」というのは「病者や要介護者といった高負担の高齢者が多くなる社会」ではなく、「元気な高齢者が体現者として参画する新しい社会」であって、政治リーダーにはそういう将来の国(地域)の姿を提案する責務があります。ところが残念なことに、政権党になった民主党のマニフェストにはそういう視点がまったくないのです。だから首相になった鳩山由紀夫さん(1947年生まれ)も菅直人さん(1946年生まれ)も、60歳代になった自分と仲間たちが形成する「本格的な高齢社会」への構想を持たず、「高齢者が構成する強い高齢社会」への参画を呼びかけることもないのです。(次回4月25日)

「日本丈人の会」活動趣旨 2011・5・20改定

戦禍のあと築いたすべてを奪い去った
「東日本大震災」からの復興と
みんなが等しく長寿を喜びあえる
「日本
高齢社会」の創出をめざして
同じ願いのみなさんとともに
「日本丈人の会」は新たな活動を推進いたします。
<小注:「丈人」というのは「老人」(余生型)におさまらない高齢健丈者> 

 表向きのエンタテイメント(楽しませること)によって薄皮一枚の華やかさに覆われていますが、わが国がいま「第三の国難」にあることはたしかです。先の大戦の戦禍のあと、辛苦して「第二の国難」を乗り越えてきたプロセスを知っている高齢者が、この難局を座視・黙止したままでいたのでは乗り切れません。

 大震災後の日常性の回復のしかた(とくにTV)は納得しかねます。このままいくと、この国(われわれが築いてきた社会)自体が崩壊しかねません。わたくしは一介のジャーナリストでしかありませんが、この10年間を見定めてきて将来を展望する立場から 『日本型高齢社会』(昨年7月)を刊行して、高齢健丈者が保っている知識や技術や資産が穏やかに参加する「本格的な高齢社会」(三世代同等多重型社会)を提案しました。
 
 史上にまれな長寿社会に生きてきて、いま高齢者(60歳以上で約4000万人)になっているわれわれは、このたびの「3・11東日本大震災」に遭遇して、「天災と人禍」というふたつの災禍の復興に務めるという史上にまれな役割を担おうとしています。さまざまな理由で全員参画はムリとしても、三人にふたりの健丈な仲間(丈人層)が、「東日本大震災」からの再生と復興に当たる被災地の高齢者を支援するとともに、みんなが等しく長寿を喜びあい、安心して暮らせる「日本高齢社会」を達成すること。それは先人が残してくれた「平和憲法」のもとでの世界にまれな「平和時代の証」です。 
 思いのほか早く、さまざまな社会的負担が高齢者の暮らしに迫ってくることが想定されます。現状のままでいれば「強い社会保障」政策の後退や大増税を覚悟せねばなりません。高齢者が力をあわせて、まず高齢者自身が暮らしやすく、そして青少年・中年・高年者がそれぞれの場で心おきなく過ごせる「本格的な高齢社会」(三世代多重型社会)の形成にむかって活動を進めることが必要であり、それは国際的な責務でもあります。 
 ここで課題はいっそう重くなったのですが、「高齢社会」の形成と「大震災」からの再生・復興とを結んだ場所から、小さくとも具体的な活動を進めることといたしました。わたしはジャーナリストとしての立場から「警世(警醒)の言」を発する役割をつづけなければと考えています。そのために活動する「丈人の会」の趣旨をご理解のうえ、参画・支援・応援をお願いいたします。
2011・5・20 
南九十九里」にて 堀内正範 記 
[活動趣旨]
◎「老人」よりも「丈人」(後注1)を意識して暮らすこと。(生活意識の改革)
◎協力して高齢者が暮らしやすい「地域生活圏」や「地域文化圏」を形成すること。そこで必要とする「モノ」の製造を企業に要請し、「場」を自治体に要請する。(地域社会活動への参画)
  自治体に官民協働による「地域生涯(シニア)大学校」を設置する。(広域生活圏の形成)
◎内閣府に「高齢政策担当特命大臣」(専任)の設置を要請する。(国への要請) 

**********                   **********
[参考図書]
この10年の高齢化対策の不在を観察してまとめた「警世の書」
丈人のススメ 日本型高齢社会 「平和団塊」(後注2)が国難を救う
(堀内正範著 2010・7・1 1500円・税別 武田ランダムハウスジャパン)
をぜひご覧ください。
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[お願い]
 2011年5月を期して本格的な活動をはじめます。活動趣旨にご賛同のうえ参画・支援・応援していただける個人・団体の会員費は次のとおりです。
 [個人会員] [団体会員]   ○初回のみ  ○毎年  ○なし
○参画会員 上記の趣旨に賛同し、努めて活動に参画。 福沢諭吉幣1
○支援会員 上記の趣旨に賛同し、活動を支援。     樋口一葉幣1
○応援会員 上記の趣旨に賛同し、活動を応援。     野口英世幣2
会員のみなさまには「活動報告」をお届けいたします。
事務局 堀内正範 ほりうちまさのり
299-4301 千葉県長生郡一宮町一宮9340-8
Tel&Fax 0475-42-5673
keitai  090-4136-7811
e-mail mhori888@ybb.ne.jp
hp「日本丈人の会 日本丈風の会」http:// jojin.jp/ 
blog「茶王樹・南九十九里から」 https://jojin.jp
 <後注>
1 「丈人」「丈人力」とは・・ 
わが国の「高齢社会」を体現している高齢健丈者のみなさんを励ますことばとして、「老人」に対比して「丈人」と呼ぶことに納得がえられるように思えます。古典(『論語「微子」』)には「四体勤め、五穀分かつ」(身体を使って労働をし、五穀を収穫する)ことをよしとする老者として現れます。ここでは古語の意味合いを援用して、それぞれの活動によって、これまで積み上げてきた知識や技術やさまざまな能力をどこまでも発展・熟達・深化させようとして働く力、ふつふつと涌いて出る強い生活力あるいは生命力を、「丈人力」(jojin-ryoku)と呼んでいます。 
「日本丈人の会」「日本丈風の会」とは・・
「日本丈人の会」 高齢者が暮らしやすい社会をつくるための日常的なふたつの目標は、ひとつは個人としてもつ「高年者意識」(丈人意識)の成熟、もうひとつは暮らしの場での「社会の高年化」の達成です。つまり高年期にある人びとが「高年者意識」を共有しながら、「社会の高年化」をめざして「モノと場としくみ」を創出することにあります。ふたつの目標にむかってどこまで参画するかは個々人の随意ですが、その活動に身を投じることは、かけがえのない高年期の人生に果断な選択をすることになり、日また一日の成果の差は歴然としたものになるでしょう。
「日本丈風の会」わが国が幸運といえるのは、大戦後の民主主義の根つきを証明してみせた「六○年安保闘争」(いま70歳代に)や「七○年大学紛争」(いま60歳代に)といった噴出期をふくむ草の根の市民・大衆運動を体験し、その後の人生経験をふまえて柔軟な思考と行動を自得した多くのアクティブ・シニアを有していることです。「日本丈風の会」は、「社会の高年化」を意識して活動している人が中心の団体や高齢者向け用品をつくっている企業など、うるおいのある生活圏や文化圏を形成し、将来の国際基準のひとつになる「日本型高齢社会」を達成する活動に参画している団体が参加する会として想定しています。  
「地域生涯(シニア)大学校推進会議」とは・・
 市町村合併の大義のひとつは「地域を愛する人材」の養成にありました。「明治の大合併」のときにはわが村の「村立尋常小学校」が設立され、「昭和の大合併」のときにはわが町の「町立新制中学校」が合併のシンボルとして設立されました。しかし今回の「平成の大合併」にあたって、国も新市も何の構想も示しませんでした。
 地域の風土や産業、伝統・歴史、高齢期にかんする知識を学ぶとともに、長い高年期をともに過ごす仲間を得る機会を提供する公立の「地域生涯大学校」が要請されています。人材や活動の情報をプールするとともに、なにより地域で暮らす高年者が「まちづくり」の新たな目標を得る機会となるからです。地域特性を加味した独自の内容で構成したカリキュラムをもつ「地域生涯大学校」で、60歳をすぎた高年者が2~3年ほど修学することで、「まちづくり」でも多くの人材を生むことになります。設立の遅延は将来の自治体の発展に差を生むでしょう。「地域生涯大学校推進会議」では全国の実例を集めて整理し発信いたします。優れた実例やご意見をお寄せください。
2 「平和団塊」とは・・
先の大戦後に生まれた昭和22年~24年の約700万人の人びとを、「団塊世代」(堺屋太一さんの同名書から)と呼び、教育や就職や商品開発・販売などの場での社会的影響が語られてきました。ここでは先の戦争の惨禍のあと、ご両親によって平和裏に生きることを託されて育てられた戦後生まれのみなさんを「平和団塊」(昭和21年~25年生まれ。約1000万人)の人びとと呼ぶことで、平和期がつづいたわが国の「高齢社会」の体現者としての位置づけをしています。それは先人が願いとした「日本国憲法」の平和主義とともにふたつながら平和の証であり、百年の計として21世紀の日本を輝かせる歴史的モニュメントであるからです。前人未到の「日本型高齢社会」の形成は、そのプロセスを含めて国際的にも注目され達成が期待されています。 
堀内正範 ほりうちまさのり
昭和13(1938)年11月1日、東京都渋谷区生まれ。終戦の年に小学1年生。都立両国高校、早稲田大学文学部卒業。朝日新聞社社友。元『知恵蔵』編集長。55歳で早期退社して中国中原の古都洛陽へ。洛陽外国語学院外籍教授を経て同学院日本学研究中心研究員。国際龍門石窟研究保護学会本部顧問。日本山東省文化交流委員会委員。「S65+」カンファレンス・スーパーバイザー。著書:『洛陽発「中原歴史文物」案内』(新評論)、『中国名言紀行・中原の大地と人語』(文春新書)、『人生を豊かにする四字熟語』(ランダムハウス講談社)、『丈人のススメ 日本型高齢社会 「平和団塊」が国難を救う』(武田ランダムハウスジャパン)など。日中友好協会紙『日本と中国』に「平和の絆・友好都市ものがたり」「四字成語ものがたり」を連載。千葉県一宮町在住。地元南十九里浜の自然を守る住民活動にも参加。
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hp「日本丈人の会 日本丈風の会」http:// jojin.jp/ 
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