七月流火 しちがつりゅうか
盛夏の七月をむかえて、暑気炎熱いよいよ激しい時節の形容として一般的に使われていた「七月流火」に対して、本来の意味合いは「向熱」ではなく「転涼」であるとして誤用を指摘したのは天文にかかわる人たちだった。
この「火」は、さそり座のα星アンタレスで、旧暦(農暦)六月の南天に赤く輝いて現れるが、七月になると西空に傾いて沈んでいく。これが「流火」であって、「七月流火、九月授衣」とつないで、秋涼を指すのが原典の意だという。
旧来の原義はそれとして、現実の生活感に親しい意味合いでの使用を誤用というなら「八月流火」を使おうではないかというのが「現代漢語」派の意見である。ことばは時代の波にもまれて意味を変えて定着する(約定俗成)。
定着してはいても誤用の代表のように騒がれるとさすがにメディアでは扱いづらいらしい。日本で用いられないのは緯度が高いために「流火」の鮮やかさに欠けるからだろう。
『詩経「豳風七月」』から
『日本と中国』「四字熟語ものがたり」 2011・8・5号
堀内正範 ジャーナリスト