四字熟語「経国大業」 

経国大業 けいこくたいぎょう 

「経国大業」といっても国を経営するために業を興すことではなく、国家のリーダーは優れた文人であらねばならないという中国の伝統を明らかに宣したことばなのである。書も巧みだし、弁も文も際立つこと。

「文章は経国の大業にして不朽の盛事なり」といったのは、曹操の長子で三国時代魏の皇帝となった曹丕である。父の曹操も文人であり、丕の弟の植と合わせて「三曹」といわれた。当時、曹氏のまわりには文人層が集まっていたのだろうが、曹操なきあと三国争覇の軍を統率していたのは司馬懿である。こちらは息子の師、昭の三人が軍議をこらす姿を「三馬同槽」といわれた。そんな司馬氏に対する牽制の意味合いもうかがえる。みずから最高の文人を称えた曹丕だが、文才では弟の曹植の方が勝るというのが衆目のみるところだったようである。

いずれにせよ、国を動かすほどの人物は優れた文章力、表現力を鍛えあげてこそ事業もまた不朽でありうるというのである。

曹丕『典論「論文」』から

『日本と中国』「四字熟語ものがたり」 2011・7・25号
堀内正範 ジャーナリスト