四字熟語 「左右逢源」

左右逢源 さゆうほうげん 

考察を深く左に右におこなえば淵源にあるものを自得できるという。わかりやすくいえば、左岸を行っても右岸を行っても最後は同じ水源へたどり着けるというのが「左右逢源」である。めざす水源(目標)がひとつであれば、途中での手法の違いなどから生じる左右対立があっても、信頼の筋を失わずに経過するうちに、ともに最終目標に到達することが可能となる。

「左右逢源」という四字熟語に、「東日本大震災」の復興という目標にむかう政界諸党派の姿が重なる。立場はちがっても、最良の方途をともに模索しながら一丸となって対処する争いなら国民は安心していられる。

ところが「逢源」の大義がみえず、「同室操戈(同室で武具をあやつる)」とでもいった抗争の姿をみるのはつらい。「一定のめど」でやめると誓約した首相は、なんと「四国お遍路」にといった。身軽になったら東北の被災地に向かうというのが、「左右逢源」を貫く指導者の発言というものだ。 

『孟子「離婁章句下」』から

『日本と中国』 「四字熟語ものがたり」2011・6・25号
堀内正範 ジャーナリスト

丈人論-「強い高齢社会」へのしくみづくり<1>-

◎内閣府に「高齢社会対策担当大臣」(専任)を
 国際的にも注目されるわが国の「本格的な高齢社会」(高齢者が安心して暮らせる社会)を推進するには、まず国のしくみとして内閣府に「高齢社会対策担当大臣」がおり、省庁を統括して結ぶ太い動線が整っている必要があります。
 内閣が代わるごとに総理大臣によって各大臣が任命され、官邸への呼びこみ、辞令交付、そして記者会見、このところ見慣れた光景になりました。そのうちの「内閣府特命担当大臣」には兼務で政策がふりわけられます。「少子化対策」も「高齢社会対策」も、ともに省庁を越えた重要課題です。「少子化対策担当」には辞令が出て記者会見の折り意見を聞かれますが、「高齢社会対策担当」は発表されないため注目されず、だれが担当かわからないのです。
 平成7(1995)年に「高齢社会対策基本法」が成立して15年、毎年出されている『高齢社会白書』(内閣府)をみますと、最近では閣議決定時での担当大臣が野田聖子、福島みずほ、そして蓮舫大臣となっています。この顔ぶれからも、合わせて担当する「少子化対策」などに重点をおいた人選であることが推測されます。今回は「少子化対策」が与謝野馨大臣の兼務となり、少子化対策を除く「共生社会政策」が蓮舫大臣となりました。したがって「高齢社会対策担当大臣」は蓮舫議員なのです。
 6月7日(火。9:52~10:00。第4合同庁舎会見室)の記者会見で、蓮舫大臣は閣議決定したばかりの「高齢社会白書」と「子ども・若者白書」の報告をしました。が、折りから記者の質問は大連立や総理の早期退陣といった政局問題に終始し、ふたつの白書への質問はなかったようです。「高齢社会白書」の閣議決定の記事さえ出なかった新聞もあるといいます。
 こんなことでいいわけありません。
 蓮舫議員が「内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全、行政刷新)」として少子化を除く「共生社会政策」を担当し、「内閣府政策統括官(共生社会政策担当)」は村木厚子さん。そのもとに「高齢社会対策担当」参事官の小林洋子さん。若い政策調査員がいますが、「仕事と生活の調和推進室」と兼務だったりしますから、内閣府に省庁を結ぶ太い動線が整っているとはいえません。
「国及び公共団体はもとより、企業、地域社会、家庭及び個人」の相互の協力のもとに、「雇用、年金、医療、福祉、教育、社会参加、生活環境等にかかわる社会システム」を不断に見直し、適切なものとしていく(基本法の前文)ためには、専任の大臣がいて当然の時期なのです。
 まずは組閣時に「内閣府特命担当大臣(高齢社会政策担当)」の辞令を、そして専任大臣を。それを実現できるのは、長く着実に経緯を見据えてきた高連協(高齢社会NGO連携協議会)などに参加する組織や専門学者のリーダーシップであり、分厚い高齢者層の人びとの熱い支援です。
「S65+」ジャーナル 2011・6・25
堀内正範

 
 
 
 

 

「原発シニア隊」(福島原発暴発阻止プロジェクト)

「現役世代よりもわれわれが」という思いからの行動である。6月16日(木)に参議院議員会館の一室に集まった80人ほどの高齢者。福島原発での被ばくを覚悟したうえでの現場作業を申し出た「原発シニア隊」(福島原発暴発阻止プロジェクト)のみなさんである。

 呼びかけたのは山田恭暉(やすてる。72。株式会社ニュークリエイト)さん。かつて60年安保を経験し、その後、企業のエンジニアとしてすごした。60歳以上で体力・経験のある人という参加条件で志願者を募ったところ、300人を超える同調者をえた。心意気だけで参加できるわけではない。即戦力の技術・経験の裏付けがいる。

 参加者から「これは戦争」という発言もあって、海外メデイアからは「suicide corps」や「自組敢死隊」という評価もみられるが、「神風特攻隊のような無謀なことはしない、安全に帰ってくることが課題」と山田さんはいう。かなり汚染された環境でのしごとが必要になる。東芝の原発技術者であった折井祥一(68)さんは、「つくったものに責任があるというエンジニアリングシップ」から参加を決めた。家族も納得しているところがいい。

 このニュースは6月19日「テレビ朝日」からだが、今後ニュースになることは少ないだろう。福島原発の過酷な現場に、覚悟を固めた高齢技術者の営為(エンジニアシップ)が加わったことを見落とすわけにはいかない。

四字熟語 「伯楽相馬」

伯楽相馬 はくらくそうま 

オルフェーヴルが圧倒的な強さで日本ダービーを制した。競馬をみてもわかるように、馬の個性はさまざま。伯楽(孫陽。春秋時代の秦の人)は馬の良否を見分ける名人だった。「相馬」してすぐれた千里馬を見出した。「相」はくわしく観察すること。「相馬」は馬の特徴を見分けること。

「世に伯楽あり、然る後に千里馬あり。千里馬は常にあれども伯楽は常にはあらず」は有名な唐代の韓愈のことばだが、伯楽のような具眼の士によって次代の人材が発掘される。

南相馬市の千年行事である「相馬野馬追」の馬も被災した。津波にさらわれたり、放れ駒になった馬もあったという。会場は屋内退避区域(福島原発から二〇~三〇キロ域)にあり、被災者供養のためにもという声もあるが、例年の七月開催が危ぶまれる。失われた家畜やペットも多い。

「伯楽一顧」というのは、伯楽が近く寄って去りながら顧みた馬は、次の日に値が三倍に跳ね上がったということからいわれる。

韓愈「為人求薦書」から。

『日本と中国』「四字熟語ものがたり」 2011・6・15 号
堀内正範 ジャーナリスト

四字熟語 「決勝千里」

決勝千里 けっしょうせんり

米海軍特殊部隊による「ジェロニモ」作戦によって、パキスタンの隠れ家でオサマ・ビンラディンは死亡した。この作戦をオバマ大統領はワシントンの指揮室で見ていた。直接指揮したわけではないが、これで支持率が上がったという。

千里も離れた遠方での戦局を指揮して勝利することを「決勝千里」という。漢の劉邦は宿敵楚の項羽を破って皇帝に推された時、諸侯を集めて洛陽で宴を張った。その席で三人の臣下をほめ上げたのである。

まず帷幄のなかにいて戦略を立てて千里先での勝利を見通す戦略家としての張良。次に財政を安定させ軍兵への糧道を絶たない蕭何。そして攻める城は必ず落とす用兵に巧みな韓信。自分より優れている能力をもつ三人を用いることで天下がとれたのだと諸侯の前でほめ上げたのである。

こういう傑出した臣下三人を「人中三傑」というが、自分よりも能力が優れた部下がいたから天下がとれたのだといえる大将もさすがである。 

『史記「高祖本紀」』から。

『日本と中国』「四字熟語ものがたり」 2011・6・5号
堀内正範 ジャーナリスト 

四字熟語 「一言九鼎」

一言九鼎 いちげんきゅうてい

トップリーダーである人の発言が軽すぎはしないか。仔細に配慮して心に響くことばによって安心を与えて国民を鼓舞するのが務めであり、その逆に混乱を増幅するようでは資格を問われることになろう。

「一言九鼎」という。一言が国家の宝器である九鼎の重みにも当たるという意味で、とくに将相たるものはそれだけの決定的な影響力を持つことを常に心底にとどめて発言しなければならないというのである。

「鼎」は三足をもつ器で、宗廟への供えものを盛ることから礼器となり、さらに青銅製の鼎は古代王朝の王権の証とされた。いまでも「問鼎軽重」(鼎の軽重を問う)というと、大きなしごとをこなすだけの実力の有無を問われる場面で使われている。「九鼎」は九州(全土のこと)から集めた青銅によって鋳造された鼎。質実ともにいかにも重い。

宰相にはそれだけの表現力が求められ、「九鼎」のような質実のあることばを吐露できる人物でなければ責務に耐えないのである。 

『史記「平原君列伝」』より

『日本と中国』「四字熟語ものがたり」 2011・5・25号
堀内正範 ジャーナリスト 

四字熟語 「春山如笑」

春山如笑 しゅんざんじょしょう

季節の変化の気配を鋭く捉えてきた先人の感性は俳句の季語に多く見ることができる。春の季語に「山笑う」があって、子規にも「故郷やどちらを見ても山笑う」の句がある。春山を巧みに表現するこの季語は「春山如笑」が典拠である。

冬のあいだ睡っていた山が春の訪れを察知して動き出す。木々の芽がそれぞれいっせいに際立ってくると、山全体が日また一日とはなやいで「春山如笑」といった姿になる。山がひとまわり大きく見える。人の心もおおらかになる。

北宋時代の画家郭煕の「山水訓」には「春山澹冶にして笑うが如く、夏山蒼翠にして滴るが如く、秋山明浄にして妝うが如く、冬山惨淡にして睡るが如し」とあって、四季の山の変化を巧みに表現している。

「夏山如滴」(山滴る)も「秋山如妝」(山妝う)も「冬山如睡」(山睡る)も、どれもみなそれぞれに味わいがある四字熟語だが、ひとつ選ぶとなると、やはり「山笑う」のもととなった「春山如笑」となるだろう。 

宋・郭煕「山水訓」から

『日本と中国』「四字熟語ものがたり」 2011・5・5号
堀内正範 ジャーナリスト  

丈人論-「強い社会保障」とともに「強い高齢社会」を<4>ー

◎「平和団塊」の人びとへの期待 
 6月2日、「菅内閣不信任決議案」の採決直前の民主党代議士会で、管直人首相は「一定のめどがついた段階で若い世代のみなさんにいろいろな責任を引き継いでいただきたい」といい、辞任後には「お遍路」をとまでいったのには、高齢者のみなさんは二重にあきれたにちがいありません。
 首相であることの何よりの責務は、震災後にみずからが何かを成し遂げることではなく、政界をあげて国難に当たる体制をつくることにあります。それを求める国民の声に応え得なかったことに責任があるのです。また発言にみるとおり、同世代や先輩に力不足を謝して去るのではなく、「世代交代」をということで仲間の信頼を失うことになります。もうひとつ、首相を辞したら「お遍路に」ではなく、「単身でも被災地に」というのが筋というものでしょう。
 菅氏は昭和21(1946)年10月10日生まれですから、「団塊の世代」(昭和22~24年生まれ、約700万人)には入っていませんが、しかし戦後生まれの政治家のひとりです。昭和22年には鳩山由起夫、23年には赤松広隆・舛添要一、24年には海江田万里、25年には塩崎恭久氏などがいます。
 この戦後生まれ世代(本稿では昭和21~25年生まれを「平和団塊」と呼んでいます。約1000万人)をさし置いてなぜ若い世代に引き継がせようとするのでしょう。少人数の知名な方で代表させていただいて申し訳ありませんが、昭和21(1946)年には市川團十郎(俳優)、田淵幸一(野球)、猪瀬直樹(作家)さん、22年にはビートたけし(タレント)、尾崎将司(ゴルフ)、中原誠(将棋)、北方謙三(作家)、西田敏行(俳優)、池田理代子(劇画)さん、23年には高橋三千綱(作家)、五木ひろし(歌手)、上野千鶴子(女性学)、井上陽水(歌手)、森下洋子(バレエ)さん、24年には村上春樹(作家)、武田鉄矢(歌手)、高橋伴明(映画監督)、矢沢栄吉(歌手)さん、25年には舘ひろし(俳優)、和田あき子(歌手)、坂東玉三郎(俳優)、姜 尚中(政治学)、八代亜紀(歌手)さんなどなど。知識も技術も芸域も充実して、実力に誇りをもって「熟年期」を謳歌し、「高齢化する社会」の可能性を体現している人びとがいます。
 この60歳代になった約1000万人の「平和団塊」のみなさんは、先の戦争の惨禍のあと、ご両親によって平和裏に生きることを託されて育ち、先輩とともに復興・先進国入りを成し遂げ、わが国の「平和時代」の証となる「高齢社会」の体現者として暮らしています。それは先人が願いとした「日本国憲法」の平和主義とともにふたつながら平和の証であり、国家百年の計として21世紀の日本を輝かせる歴史的モニュメントなのです。「日本高齢社会」の形成は、そのプロセスを含めて国際的にも注目され達成が期待されています。「世代交代」をいう菅直人氏は、みずからの世代の役割をあまりにも知らなさすぎるのです。
「S65+」ジャーナル 2011・6・15 
堀内正範 

 

ふなばし市民大学校(1年制)

◎ふなばし市民大学校(1年制)
○運営 船橋市市社会教育課
○所在地 273-8501 千葉県船橋市市場2-6-1
○連絡先 tel 047―460-6311 fax 047-460-6312
○創立 1983年、老人大学校を開校。2004年、ふなばし市民大学校として開校
○入学資格 いきいき学部は60歳以上の市内在住者
○経費 まちづくり学部 無料 いきいき学部10,000円(実習教材費は自己負担) 
○課目・学科 2学部9学科
まちづくり学部4学科 スポーツプランナー30 ボランティア30 学びのコーディネーター30 ふなばしマイスター30人。  いきいき学部5学科 一般教養(1・2)各50 健康(1・2)各50 パソコン(1・2・3)各25 陶芸(1・2)各25 園芸(1・2)各25人。
○専門講座 まちづくり学部は授業をとおして学んだ知識・技術をもとに、まちづくりの地域活動に参加するコミュニティーリーダーの育成。いきいき学部は講義と実践による学習活動やクラス会での活動をとおして生きがいづくり、仲間づくりをめざす。
○クラブ活動 各学科にクラス会を設けて、自主的に活動している。
○卒業後のようす スポーツ健康大学OB会、いきいき同窓会、ボランティアサロンふなばしなど、自在な形で活動している。
○特徴・評価(堀内) ふなばし市民大学校は、別々に実施されていた老人大学校、ボランティア大学、スポーツ健康大学、生涯学習コーディネーター養成講座を一つにまとめ、より充実させて2004年から開校したもの。まちづくり学部に2010年度からふなばしマイスター学科が加わった。が、まちづくり学部全体としての整合性を得るにはなお工夫の余地がある。また長い経緯をもつ老人大学校以来の生きがいづくりも、1年制ということもあり、個人を超えた市民参加へのいきいきした展開を見出すまでにはいたっていない。

四字熟語 「家書万金」

家書万金
かしょばんきん

この度の地震に際して、東京でも電車が止まり携帯電話が通じないため家族との連絡がつかないという経験をした人も多かった。

「家書」はわが家からの手紙。戦乱の中で別れ別れになってしまっている家族からの手紙は、どんなにお金(万金)を積んでもほしい貴重なもの。これはよく知られた杜甫の詩「春望」に出てくる。戦乱で破壊された都長安にとらわれの身であった杜甫は「家書万金に抵る」と家族の安否への思いを詠っている。

「天災人禍」は繰り返し起こって人民を苦しめてきた。最大の「人禍」は戦争だろう。「春望」は「国破れて山河在り、城春にして草木深し」で始まる。この詩句は先の大戦後の復興期によく引用された。戦禍のあと父も母も見たこの国の「青い山脈」は優しかった。

「天災人禍」合わせて襲った被災地で、いまなお家族と音信が途絶えたままでいる人びとの心中が思いやられる。「家書万金」の経験は平和な時代にも起こりうることなのである。

杜甫「春望」より