一言九鼎 いちげんきゅうてい
トップリーダーである人の発言が軽すぎはしないか。仔細に配慮して心に響くことばによって安心を与えて国民を鼓舞するのが務めであり、その逆に混乱を増幅するようでは資格を問われることになろう。
「一言九鼎」という。一言が国家の宝器である九鼎の重みにも当たるという意味で、とくに将相たるものはそれだけの決定的な影響力を持つことを常に心底にとどめて発言しなければならないというのである。
「鼎」は三足をもつ器で、宗廟への供えものを盛ることから礼器となり、さらに青銅製の鼎は古代王朝の王権の証とされた。いまでも「問鼎軽重」(鼎の軽重を問う)というと、大きなしごとをこなすだけの実力の有無を問われる場面で使われている。「九鼎」は九州(全土のこと)から集めた青銅によって鋳造された鼎。質実ともにいかにも重い。
宰相にはそれだけの表現力が求められ、「九鼎」のような質実のあることばを吐露できる人物でなければ責務に耐えないのである。
『史記「平原君列伝」』より
『日本と中国』「四字熟語ものがたり」 2011・5・25号
堀内正範 ジャーナリスト