岡田副総理、「高齢社会対策」担当大臣はあなたです。
1月13日の内閣改造人事で、「高齢社会対策」担当大臣が蓮舫議員から岡田克也副総理に変更になりました。
といっても、全国の高齢者のみなさんはご存じないだろうと思います。ひょっとすると、たくさんの職務を兼任することになった岡田さんも気づいてないかもしれないのです。岡田さんの担当は、行政改革、社会保障・税一体改革、公務員制度改革、それに内閣府特命担当大臣として、行政刷新、「新しい公共」、少子化対策、男女共同参画までが新聞発表で、「高齢社会対策」の名は見えません。「日本高齢社会」は国際的にも注目されているのですが。
これまでのところ、週2回の記者会見でも、岡田さんから関連の発言はないようですし、記者からの関連の質問もないようですから、単なる担当大臣の変更であって、内容に変更が起きるようすはありません。
これはいったいどうしたことなのでしょう。
高齢者(65歳以上)はことし3000万人に達します。これだけの人びとが体現している「高齢社会」が重要でないわけはないのですが、政策としては、医療、介護、年金などの「高齢者対策」としての「社会保障」が相変わらずの国の政策であって、「高齢社会対策」ではないからです。「高齢社会」を体現している元気な高齢者は毎年増えつづけてきたものの、これまでは施策として大きな予算措置を講ずるような経済社会的な難題を生じなかったということでしょうか。1999年の「国際高齢者年」のあと、この国の10年余の高齢社会対策の推移を観察しつづけてきた立場からいえば、政治リーダーの「高齢社会」構想の不在(政治不在ゆえの官僚主導)が、この国の穏やかな社会の変革を阻害してきたといわざるをえないのです。ひとことでいえば「歴史的な失政」です。歴史家はそう記すでしょう。
21世紀の重要な課題であるからこそ、国は1995年(65歳以上は1825万人)に「高齢社会対策基本法」を制定し、1996年に対策の中長期的指針となる「大綱」を閣議決定し、2001年に「大綱の見直し」をおこない、今般、10年ぶりに「大綱の見直し(作りかえ)」をすすめているのです。その基本にあるのは、ことしから高齢者の仲間入りをする200万人余の「団塊の世代」の人びとが体現している--支えられる高齢者から支える高齢者への「高齢者像」の変革です。
内閣改造のあった前日の1月12日、内閣府では、「高齢社会対策大綱」の見直しのための「報告書素案」について、有識者検討会が開かれていました。「報告書素案」について、清家篤座長(慶応大学塾長)を中心にして6人の委員の方々の議論がおこなわれ、その結果をふまえて2月には最終案が提案され、予定では年度中に高齢社会対策会議が開かれて「見直し大綱」が閣議決定されようとしているのです。
支えられる高齢者から支える高齢者への意識の変革をもとめるなら、広く国民とくに高齢者にその経緯も内容も知ってもらわなくてはなりません。知られることなく6人の委員の意見が聴取されただけで、中長期の指針が決められようとしています。「見直し」はまずその議論の手法にあるのですが、そのことに岡田担当大臣の認識は届いていないようです。
野田総理が「大綱見直し」を指示したのは昨年10月14日でした。趣旨説明をおこなったのは当時の蓮舫担当大臣で、2012年から「団塊の世代」が65歳に達して経済社会情勢に変化が見込まれるというのがその主な理由とされています。
「報告書素案」にも、「団塊の世代」の参加による高齢者意識の変化、全世代の参画、「ヤング・オールド・バランス(世代間の納得)」、「シルバー市場の活性化(総理の指示に応えて)」そして「互助(顔の見える共助)」の必要性など、「高齢社会」が実質的に動く時期にさしかかっているという認識が示されています。
この国の「高齢社会」の変革にかかわる重要な会議の経緯を、蓮舫大臣がそういう認識をもって、岡田大臣に引き継いだようすはありません。
そして同じ1月12日、内閣府から至近の距離にある憲政記念館会議室では、高連協による「高齢社会大綱の見直し」に際しての「高連協提言」(別掲)の発表会が開かれました。
「提言」は、普遍的長寿社会は人類恒久の願望であり、「高齢化最先行国」として世界に示す施策とすべきこと、高齢者は能力を発揮して社会を活性化し充実感を持って生きること、就労の場における年齢差別の禁止、基礎自治体との協働、少子化社会対策、より良い社会を次世代に引き継ぐこと、ほかを提案。将来像としては、世代間の平等、持続可能性等の観点から「釣鐘型社会」を想定しています。
樋口恵子、堀田力代表の提言者としての発言はじめ出席高齢者のみなさんの議論があったのですが、報道関係者の姿は少なく、残念ながらニュースとして伝えられたようすがありません。野田総理、岡田担当大臣の手元には届いているのでしょうが、1999年いらい民間にあって高齢社会のありようにかかわってきた人びとの貴重な「提言」と発言を、一般の高齢者に伝えるメディアもないというありさまなのです。
岡田副総理から記者会見で「大綱見直し」への言及はなく、記者からの質問もなく、「高齢社会対策大綱」の検討は 公開の機をえないままで推移しています。岡田さんは「日本が沈みつつあるということをいろいろな場面で実感」しているので「歯止めをかけたい」とまでいいながら、優れた知識と経験と気力と資産を保持している3000万人(票)の先輩たちに参画も支援も求ようとしていません。3000万人の高齢者の穏やかな参画をえないゆえに「日本が沈みつつある」ことに気づかない高齢社会対策担当大臣、これではこの国の何かが変わるとは思えません。
岡田副総理、あなたは「高齢社会対策」担当大臣でもあるのです。
「高齢社会対策大綱の見直し」に対する「高連協提言」 2012・1・12 報告
「高齢社会対策大綱の見直し」に対する「高連協提言」 2012・1・12 報告
昨年末、2011年12月28日の新情報「高齢社会対策大綱の見直し」稿で、
全国の高齢者のみなさん、平成二四年一月一二日、蓮舫担当大臣のもとで内閣府で開かれる「第三回高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会」の報告書素案に注目してほしい。そして同日同時に、近くの憲政記念館会議室で、高連協(高齢社会NGO連絡協議会)が開催する「高齢社会大綱の見直し」に対する「高連協提言」発表会を合わせ注目してほしい 。
と訴えた。
内閣府の検討会は、今回は6人全員の出席のもとで、「報告書素案」が提案されて検討がおこなわれました。12日に提案された「素案」は内閣府のホームページで読みましたが、「団塊の世代」の取り込みに苦慮し、「互助(顔の見える共助)」の必要性、「全世代の参画による超高齢社会」への変革、「ヤング・オールド・バランス(世代間の納得)」という視点、「時間貯蓄・ポイント制」といった評価基準の多様化の提案、「シルバー市場の活性化」を加えて総理の指示に応えるといったところが、「見直し・追補」として見てとれます。
その後に、「おわりに」の内容をふくめて検討されましたから、会議録をみませんと細部はわかりませんが、「全世代型」や「ユニバーサル・デザイン」をいいながら三世代それぞれが世代としての特徴を活かした暮らし方、とくに高齢者から若年・中年へ配慮した参画への言及がないこと、高年社員による高年者向け商品製造による新しいしごとの創出、「エージング(引き延ばし)」とともに緩やかに形成されるべき「三世代コミュニティ」への推移、そして「意識変革(多重化)」などへの展開が欠けています。
全容の評価は、会議録の公表をまって行います。
1月13日の内閣改造で、高齢社会対策担当大臣が蓮舫議員から岡田克也副総理に変更になりましたが、当人から「大綱見直し」の言及はなく記者からの質問もなく、軽視(無視)されたまま推移しています。岡田さんは「日本が沈みつつあるということをいろいろな場面で実感」しているので「歯止めをかけたい」とまでいいながら、すぐれた先輩たちに「参画も支援」も求ようとしない。これでは何かが変わるとは思えません。
一方、高連協の「提言の会」は、憲政記念館会議室で別添のような「提言」を発表しましたが、朝日新聞の記者がきていただけで、樋口・堀田両氏をはじめとする高齢社会を体現している立場からの発言が、ニュースとして外部へ知られたようすはありません。
これはゆゆしき事態です。
別添
高連協「高齢社会対策大綱の見直し」に当たって提言
2012年1月12日
内閣総理大臣
野田佳彦 様
高齢社会NGO連携協議会(高連協)共同代表 樋口恵子、堀田力
理事役員・有志一同
高齢社会NGO連携協議会(以下「高連協」)は、高齢社会への対応・対策の促進を願い活動する我が国のNGOが、1999年国連が定めた「国際高齢者年」を機に創設した連合組織で、国連が提唱する高齢者の五原則(自立、自己実現、社会参加、ケア、尊厳)を基に、「高齢者(シニア)の社会参加活動の促進」を掲げて諸活動を展開しております。
高連協の活動は、活動会員による定期的オピニオン調査(60歳以上2000名対象)の結果を踏まえた全体活動、そして、60余の加盟団体が相協力して展開している活動ですが、そのテーマのほとんどは国が示す「高齢社会対策大綱」の方針と内容に関わるものです。
したがって、我々は「高齢社会対策大綱」には多大の関心を持っており、その見直しは高齢化社会の進行上必要なことと考えます。野田総理の高齢社会対策会議冒頭の挨拶と指示は、付言された「高齢者の消費の活性化」を「高齢者の生活行動の活性化(当然「消費」も活性化する)」と解せば、我々シニアは大いに共鳴するところです。
以上のような観点から、我々は、社会参加活動に関わるシニアのオピニオンとして「高齢社会対策大綱の見直し」に当たって提言申し上げます。
「提 言」
前文
我々シニアは、終戦、社会倫理の転換、貧困からの脱却のための経済成長から経済大国そしてバブル崩壊を生きて来た。この間日本人は平和な社会と生活の質の向上により、その指標とされる「平均寿命」の急速な伸長を得て、世界最高レベルの長寿を享受している。
しかしながら、寿命の伸長とともに、子どもの自立・就労や結婚年齢のエイジング(加齢化)もすすみ、1980年以降は急激な出生減、少子化現象をきたしている。
普遍的長寿社会は、人類恒久の願望であり、世界各国とも目指す社会である。しかし、それを具現化しつつある我が国がそのモデル国と見做されるためには、低下した出生率の回復が望ましく、世代間の平等や家族・民族の持続可能性を目指した社会的努力が必要であろう。現在の我が国社会に必要なのは、我々が目指すべき社会像・将来像である。
「高齢社会対策大綱」の見直しに当たっては、当面我が国における高齢社会対策としてのみならず、全世界的課題である高齢化の最先行国として、我が国が世界に示すことのできる施策となるよう、これを策定すべきである。
上記「前文」を踏まえて、我々高連協は以下のとおり提言する。
1.普遍的長寿社会においては、高齢者は、他の成人層と同じく、その能力を存分に発揮して社会を活性化するとともに、自らも充実感を持って生きることが求められる。
・ 高齢者に対し、高齢であることを理由として社会生活からの引退を促すような制度や社会的風習は廃絶しなければならない。
・ 社会的活動とくに就労の場における非合理的な年齢差別を廃し、積極的な高齢者の能力を活用するため、「年齢差別禁止法」を制定する。
・ 「高齢者であっても、その能力を可能な限り社会に生かすことは、その権利であると同時に社会的義務である」という思考を醸成する。
・ 高齢者が能力を発揮するためには、人生後半のための情報、学習機会の提供が不可欠である。
2.「高齢社会対策大綱の見直し」においては、大規模かつ多様な高齢者への対応が求められるが、大綱に示す基本姿勢に則り、横断的かつ柔軟な取り組みをもって施策が推進されることが肝要である。
・ 普遍的長寿社会において、総ての人が幸せな生涯を過ごすため、高齢者の尊厳保持を究極の目標として、高齢者に関する諸施策が総合的で整合性のあるものとすべきである。
・ 高齢者の自主性を生かした社会参加活動を活性化するため、基礎自治体が地域社会の特性を生かし、高齢者の「居場所」と「出番」をつくり、高齢者を含めた住民との協働事業が促進されるよう施策の展開を図る必要がある。
・ 弱体化した地域医療サービスについては、総合医を中核にした初期医療サービス体制を構築すべきである。そして、訪問診療も併せた幼児・児童と高齢者への対応サービスを推進する必要がある。
・ 「高齢社会対策大綱」の見直しとその推進には、高齢有識者やシニア活動実践家の参加が不可欠である。
3.我が国社会に求められる社会像、将来像としては、世代 間の平等、持続可能性等の観点から、人口、資産、就労面で解りやすい「釣鐘型社会」を想定したい。
・ 先祖・親世代と同様、現代の高齢者も、より良い社会を次世代に引継ぎたいと願っている。
・ 人口構造上の釣鐘型社会の想定には、国際移民の活性化も必要であるが、先ずは「少子化社会対策」の推進が重要である。
・ 地域社会の老若男女がこぞって子育てにも介護にも参加し、四世代共住の支え合い型地域社会をつくることが肝要である。
以上
高齢社会NGO連携協議会(高連協)
〒104-0045 中央区築地2-15-14 築地安田ビル
Tel:03-3542-0363 Fax:03-3542-0362
jimukyoku@janca.gr.jp
新情報--高齢社会対策大綱の見直し 1
堀内正範
朝日新聞社社友
高連協オピニオン会員
◎ 第二〇回高齢社会対策会議
平成二三(二〇一一)年一〇月一四日(金)、首相官邸。
蓮舫担当大臣の趣旨説明。
[本日は新しい「高齢社会対策大綱」の検討についてお諮りいたします。「高齢社会対策大綱」とは「高齢社会対策基本法」六条にありますように、政府が推進すべき高齢社会対策の指針です。政府が推進すべき「高齢社会対策」の中長期的な指針として、平成一三年一二月に閣議決定されたものです。]
遠く昭和六一(一九八六)年に「長寿社会対策大綱」としてまとめられ、平成七(一九九五)年の「高齢社会対策基本法」の制定のあと、平成八(一九九六)年に「高齢社会対策大綱」となり、世紀をまたいで前回の平成一三(二〇〇一)年の「大綱」の閣議決定。
[ 経済社会情勢の変化等を踏まえて、必要があると認めるときに見直しをおこなうものとされています。来年以降、団塊の世代が六五歳に達し、わが国の高齢化率がさらに伸びることが見込まれています。こうした経済社会情勢の変化を受けまして、政策面では本年六月三〇日に「社会保障・税一体改革成案」が取りまとめられたなどの進展がみられます。これらのことから、平成二三年度内の閣議決定を目途に、新しい大綱の案を作成することにしたいと思います。この点についてまずご了承いただけるでしょうか。]
了承の声。
[ それでは大綱の見直しに当たりまして、会長であります内閣総理大臣からお考えをお願いいたします。]
「高齢者の消費の活性化」を視点に加える
[ はい。おはようございます。]
野田総理の発言・・ 。
[ まさに人類史上、前人未到のスピードで高齢化が進んでいると思いますが、悲観的になるのではなく、高齢社会にしっかり向き合って、世界最先端のモデルを作っていくということが、この大綱作りの基本的な考え方になるだろうと思いますので、私のほうからは三点、基本的な視点を提示をさせていただきたいと思います。 一つは、高齢者の居場所と出番をどう用意するか、二つ目は高齢者の孤立をどう防いでいくか、三つ目は現役時代からどう高齢期に備えができるのか、以上三つが基本的な視点ですけれども、あえてもう一つ付け加えるならば、「高齢者の消費をどう活性化していくのか」ということも大事な視点ではないかと思います。・・ こういう考え方をもとに大綱作りについてのご議論をキックオフしていければと思いますので、よろしくお願いをいたします。]
(注:高齢社会対策担当大臣は2012年1月13日の内閣改造で岡田副総理に。)
◎ 六人の有識者で「大綱」を見直し
素案の原案を作るために設けられる「高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会」の有識者委員の顔ぶれ。
前回の平成一三年の時の検討会委員(清家篤座長)は各界からの一三人であった。中間の平成一七年~一九年に「大綱見直し」の参考にする前提で開催された「今後の高齢社会対策の在り方等に関する検討会」(清家篤座長)では専門学者を中心に一〇人のメンバーが検討をおこなっている。ここは大学の現役学者ばかりでなく、体現者である高齢者の代表、活動の実践者、シニア・グッズの生産者やサービスの提供者、団塊世代の代表、さらには東北の被災地でいまその課題に直面している人びとといった多方面の現場からの要望の集約が必要であろう。各界からの声を多く聞き、多くの国民に理解をしてもらう機会とせねばならないからである。
ところがどうしたことか委員は六人に減らされている。六人の有識者委員というのは、次の方々である。
座長 清家篤 慶応大学塾長(1954~)
香山リカ 精神科医 立教大学現代心理学部映像身体学科教授(1960~)
関ふ佐子 横浜国大大学院国際社会科学研究科准教授
園田真理子 明治大学理工学部建築学科教授
弘兼憲史 漫画家(1947~)
森貞述 介護相談・地域づくり連絡会代表(前高浜市長)(1942~)
前回座長であった清家塾長がいるとはいえ、このメンバーだけで見直しの素案を得ることに納得は得られないだろう。しかもわずか四回の会議で意見をまとめ、内閣府で整理して二三年度中に「高齢社会対策会議」に報告するという「快馬に加鞭」ぶりである。成案はすでに出来ているといわんばかり。
座長は当然のこと清家塾長が担当し、すでに一〇月二一日、一一月二五日と二度おこなわれている。このあと年明けの一月一二日には「素案」についての議論がなされ、二月二日には「報告書」のとりまとめをおこなうという。
すぐれた法改正ができたとしても、体現する国民が構想や対策の内容を知らず理解できずに、だれが実現してその成果を享受できるのか。
案に相違せず、一〇月二一日の「第一回検討会」の冒頭で、原口剛参事官から「高齢社会対策主要施策の推移」「高齢社会の現状」の説明ということで、さまざまな関連法や現状についての「非常にたくさんのデータ」の説明が「簡単」になされて、委員からは何の質問もなしに通過している。
こういうプロセスそのものを見直して、国民に周知する機会とせねばならないのに。これもやはり責任は担当大臣にある。
このまま進んで清家さんの整理にまかせることで「報告書」は作れるだろうが、衆知を集めて議論して広く知られる「新たな大綱」としなければ、増えつづけていまや三〇〇〇万人に達する高齢者に、新たな「高齢社会」の当事者意識は生まれず、参加の機会もつくれない。ここで社会参加の意識を生めないようなら、この国をここまで成し遂げた人びとの高齢期人生を、政治は見捨てることになる。
国・自治体のこれ以上の対応の遅れは、「日本高齢社会」形成のチャンスを失うことになり、この国の高齢者の人生を丸ごと不幸にしかねない。
一月一二日開催のふたつの会に注目
野田総理は、千里の道を遠しとはせず、まずはその第一歩を足下の内閣府構成メンバーの立て直しから始めること。高齢社会対策担当大臣、副大臣のもとに、専任の審議官、政策統括官、参事官などがそろった高齢社会対策のための太い導線を敷くこと。その上で一〇年ぶりの「大綱」の見直しを多くの人びとの参加を得て進めても遅くはない。中長期の新しい国づくりの指針として作成するはずのものだからである。そうあってはじめて、国際的にも誇れる「日本高齢社会」達成への道は緒につくのである。
平成一三年のあと、中間の平成一七年~一九年におこなわれた今後のための検討会、そして今回の有識者各委員がそれぞれの立場で提供した意見は貴重であり、その労を無視するわけではないが、もっともっと各界を代表する有識者の声を聞き、広く高齢者の意向を反映した素案が作成されねばならない。
全国の高齢者のみなさん、平成二四年一月一二日、蓮舫担当大臣のもとで内閣府で開かれる「第三回高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会」の報告書素案に注目してほしい。
そして同日同時に、近くの憲政記念館会議室で、高連協(高齢社会NGO連絡協議会)が開催する「高齢社会大綱の見直し」に対する「高連協提言」発表会を合わせ注目してほしい。(二〇一一年一二月二八日)
◎参考著書
『丈人のススメ 日本型高齢社会 「平和団塊」
が国難を救う』(武田ランダムハウスジャパン・
二〇一〇年七月刊)
新情報-蓮舫さん、高齢者まで仕分けするのですか
蓮舫さん、高齢者まで仕分けするのですか
堀内正範
朝日新聞社社友
高連協オピニオン会員
◎ 第二〇回高齢社会対策会議 ◎
平成二三(二〇一一)年一〇月一四日(金)、朝八時一三分、首相官邸。
八時過ぎに官邸にはいった野田総理が中央の席について、定例閣議に先立って「高齢社会対策会議」(第二〇回)が開かれた。
「政府インターネットテレビ」でそのようすをみることができる。その映像では、金曜の定例閣議なら官房長官からだが、ここは担当大臣の発言から始まった。高齢社会対策担当大臣はだれか。知る機会がないから国民のほとんどが知らないにちがいない。
実は蓮舫議員の兼任なのである。
このところ全閣僚がメンバーであるこの会議は一年に一度、持ち回りですませてきた。『高齢社会白書』の内容となる「高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況」と「次年度高齢社会対策」の承認のためだが、閣議の前とはいえ閣僚がテーブルを囲んで開かれたのは一〇年ぶりに対策の指針である「高齢社会対策大綱」の見直しを諮るための重要な会議だったからである。
国際的高齢先進国であるわが国の「高齢社会対策」のトップが四四歳のマルチタレントであることを知って、いかにこの国の政治が実態から遠いところにあるかに驚かされるだろう。驚きを通りこして、呆れたり失望したり腹を立てたり・・などしているヒマはない。
蓮舫担当大臣のあのタテ板に水の趣旨説明がすべるように流れる。
一〇年ぶりの「大綱」見直し
[ おはようございます。ただいまから第二〇回「高齢社会対策会議」を開催いたします。本日は新しい「高齢社会対策大綱」の検討についてお諮りいたします。「高齢社会対策大綱」とは「高齢社会対策基本法」六条にありますように、政府が推進すべき高齢社会対策の指針です。お手元に参考までに配布をいたしました「高齢社会対策大綱」・・政府が推進すべき「高齢社会対策」の中長期的な指針として、平成一三年一二月に閣議決定されたものです。]
遠く昭和六一(一九八六)年に「長寿社会対策大綱」としてまとめられ、平成七(一九九五)年の「高齢社会対策基本法」の制定のあと、平成八(一九九六)年に「高齢社会対策大綱」となり、世紀をまたいで前回の平成一三(二〇〇一)年の「大綱」の閣議決定。
昭和四二(一九六七)年に生まれて平成一六(二〇〇四)年初当選の蓮舫大臣。内閣特命担当大臣として、行政刷新、「新しい公共」、少子化対策、男女共同参画そして公務員制度改革の担当である。「高齢社会対策」は「共生社会政策」のもとでの政策課題として担当している。
タテ板の水はまだ途切れない。
[ 経済社会情勢の変化等を踏まえて、必要があると認めるときに見直しをおこなうものとされています。来年以降、団塊の世代が六五歳に達し、わが国の高齢化率がさらに伸びることが見込まれています。こうした経済社会情勢の変化を受けまして、政策面では本年六月三〇日に「社会保障・税一体改革成案」が取りまとめられたなどの進展がみられます。これらのことから、平成二三年度内の閣議決定を目途に、新しい大綱の案を作成することにしたいと思います。この点についてまずご了承いただけるでしょうか。]
ここまで一気に。
了承の声。
残念ながら、蓮舫大臣の発言には、前回の平成一三年の「大綱」の閣議決定の後も対策の背後で労苦して活動いる人の姿を想い、力を尽くして見直そうという気持ちの抑揚は感じられない。だから後ろに並んでいる担当官僚にも緊張感は生じない。朝早い会議のせいばかりではないだろう。
「声振林木」という成語がある。歌声が心に響き、あたりの林木をも振るわせるようすをいうが、蓮舫さんなら演技ででもできそうなところ。一〇年ぶりにやってくれるかと期待して検索した高齢者は、このあたりでまず意を削がれるのである。
[ それでは大綱の見直しに当たりまして、会長であります内閣総理大臣からお考えをお願いいたします。]
蓮舫大臣にうながされて、野田総理が立つ。シャッターの音しきり。
「高齢者の消費の活性化」を視点に加える
[ はい。おはようございます。]
野田総理の発言・・ 。
野田さんは、このあとだれにも解りやすい胴上げ・騎馬戦・肩車の例を引いて、いずれはひとりがひとりの高齢者の面倒をみることになる「肩車型高齢社会」の困難な情景を思いながら説明する。しかもこの三つの例にまんざらでない納得の表情を浮かべて。
見直しに期待を持った高齢者なら、そのステレオタイプな「高齢者は被扶養者」という高齢者観に失望してしまう。自分の高齢者になったときの姿がわからないというこの若い総理に、「高齢社会対策大綱」のつくり直しができるのだろうか。まさにそういう先入観を見直そうという時なのに。
騎馬戦や肩車に乗っているのはだれ?
世情をよく見てほしい。
いまや子や孫のめんどうをみているのは、高齢世代なのだから。孫たちの学習机や自転車、パソコン・・、子どもの住宅ローン、家族旅行・・。「オヤノコト」といいながら、準備する墓石だって支払いはオヤの方なのである。
そんなことを重ね合わせながら、あとを聞く。
[ まさに人類史上、前人未到のスピードで高齢化が進んでいると思いますが、悲観的になるのではなく、高齢社会にしっかり向き合って、世界最先端のモデルを作っていくということが、この大綱作りの基本的な考え方になるだろうと思いますので、私のほうからは三点、基本的な視点を提示をさせていただきたいと思います。]
いいね。高齢社会にしっかり向き合って、世界最先端のモデルを作っていくというあたりには同意できる。
だが、総理に「悲観的になるのではなく」といわれて、元気なシニアは戸惑わざるをえない。なぜ「悲観的」といわねばならないのか。五〇歳代はじめの人の感覚では、高齢者になること、高齢者であることがそれほど「悲観的」なことなのか。戸惑う間もなく、話は三つの基本的な視点に及んでいる。
[ 一つは、高齢者の居場所と出番をどう用意するか、二つ目は高齢者の孤立をどう防いでいくか、三つ目は現役時代からどう高齢期に備えができるのか、・・以上三つが基本的な視点ですけれども、あえてもう一つ付け加えるならば、「高齢者の消費をどう活性化していくのか」ということも大事な視点ではないかと思います。]
基本的な三つの視点、「居場所と出番」「孤立防止」「現役時代からの準備」は、すでに言われてきた課題である。そこへ付け加えたのが、「高齢者の消費の活性化」。
スピーチでのこの発言の意図はどこにあるのか。
野田さんがいう「消費の活性化」は、世にいわれる黒字一四〇〇兆円の家計資産から赤字一〇〇〇超兆円の負債をかかえる国家財政への兆円の移動、つまり「消費税増税」にかかわってのことと憶測される。ねらいは家計貯蓄の多い高齢者層にある。しかし現役世代が考えているよりも高い生活感性を持つ高齢者層に、うるおいと充足をもたらすような製品(用品)の提供ができるかどうか。高齢者は、途上国製の百均商品(用品)にかこまれて、「やや高だけれども安心して使える国産優良品」の登場を待っているのは確かである。高齢者の暮らしを支えるモノの必要性に言及したことには注目しよう。努力なしの単なる消費税増税では高齢者は納得しないし、消費の活性化も起こらない。
[ こういう考え方をもとに大綱作りについてのご議論をキックオフしていければと思いますので、よろしくお願いをいたします。]
希望は失望へそして少しだけ希望へと折り返す。
蓮舫大臣の発言・・
[ありがとうございました。]
これが、「政府インターネットテレビ」の映像と「首相官邸ホームページ、総理の動き」から起こした蓮舫大臣と野田総理の発言の細部である。会議は八時三一分に終わっているから、このあと一五分ほどのやりとりがあったようだが、ここではこれ以上の詳細な内容を必要としない。若く有能な大臣と中庸・凡庸を装う総理の発言と元気な六五歳+の高齢者の感想との間のギャップは、以上のように歴然としている。
そのあいだ終始途切れず、発言が聞きづらいほどに「シャリ、シャリ」とシャッター音がつづいていたが、どれほどの社が写真入り記事にしたかが気になった。
*****
◎ 六人の有識者で「大綱」を見直し ◎
二三年度中に結論を出す性急さ
よく聞くと、この第二〇回「高齢社会対策会議」で、決定者である蓮舫担当大臣は、大綱の見直しを「新しい大綱の案を作成する」とまでいっている。だが注意すべきは「二三年度中」という点で、すでにハーフタイムを過ぎている時期からどれほどの検討をして二三年度中に新しい大綱を作成しようというのか。
まずは素案の原案を作るために設けられる「高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会」の有識者委員の顔ぶれを見なければならない。
同じ「有識者会議」でも、他の分野と異なって高齢社会が対象なのだから、ここは大学の現役学者ばかりでなく、体現者である高齢者の代表、活動の実践者、シニア・グッズの生産者やサービスの提供者、団塊世代の代表、さらには東北の被災地でいまその課題に直面している人びとといった多方面の現場からの要望の集約が必要であろう。
前回の平成一三年の時の検討会委員は各界からの一三人であった。中間の平成一七年~一九年に「大綱見直し」の参考にする前提で開催された「今後の高齢社会対策の在り方等に関する検討会」(清家篤座長)では専門学者を中心に一〇人のメンバーが検討をおこなっている。その「報告書」は参考にすべきだが、だからといって一〇年ぶりの今回を「軽車で熟路」ですいすいとすませるわけにはいかない。もっと各界からの声を多く聞き、多くの国民に理解をしてもらう機会とせねばならないからである。
ところがどうしたことか委員は六人に減らされている。六人の有識者委員というのは、次の方々である。
座長 清家篤 慶応大学塾長(1954~)
香山リカ 精神科医 立教大学現代心理学部映像身体学科教授(1960~)
関ふ佐子 横浜国大大学院国際社会科学研究科准教授
園田真理子 明治大学理工学部建築学科教授
弘兼憲史 漫画家(1947~)
森貞述 介護相談・地域づくり連絡会代表(前高浜市長)(1942~)
前回座長であった清家塾長がいるとはいえ、このメンバーだけで見直しの素案を得ることに納得は得られないだろう。しかもわずか四回の会議で意見をまとめ、内閣府で整理して二三年度中に「高齢社会対策会議」に報告するという「快馬に加鞭」ぶりである。成案はすでに出来ているといわんばかり。
座長は当然のこと清家塾長が担当し、すでに一〇月二一日、一一月二五日と二度おこなわれている。このあと年明けの一月一二日には「素案」についての議論がなされ、二月二日には「報告書」のとりまとめをおこなうという。
これでは高齢者を仕分けすることに
このプロセスと人選の決定者は、民主党のホシ・仕分けのオニ蓮舫担当大臣である。穏やかな学者の清家さんに「否(ノン)」という強さは求めづらい。しかも原則公開となってはいるが、これまでに新聞・TVでの一般情報で問題にされたようすはない。内閣府のホームページで経緯や資料や議事録を見ることはできるが、ほとんどの国民が知らないままで「見直し検討会」を終えようとしている。
すぐれた法改正ができたとしても、体現する国民が構想や対策の内容を知らず理解できずに、だれが実現してその成果を享受できるのか。
案に相違せず、一〇月二一日の「第一回検討会」の冒頭で、原口剛参事官から「高齢社会対策主要施策の推移」「高齢社会の現状」の説明ということで、さまざまな関連法や現状についての「非常にたくさんのデータ」の説明が「簡単」になされて、委員からは何の質問もなしに通過している。
こういうプロセスそのものを見直して、国民に周知する機会とせねばならないのに。これもやはり責任は担当大臣にある。
蓮舫さん、あなたは高齢者まで仕分けてしまうのですか。高齢者のひとり(一票)として異議あり! 検討未了として有識者の意見の追加聴取を求めます。
有識の人は学者ばかりではなかろう。 上に挙げたような現場の人びとのナマの声が聞きたい。ほかにもその発言に国民が耳を傾けるような人びとを検討会に呼んで意見を聞くこと。それが原則公開の意味である。そういう人びとの発言ならニュースになって多くの国民の知るところとなる。「皇潤」などの広告に出るような高齢ヒーロー・ヒロインの人びとの「出番」ではないのか。
とくに「3・11大震災」以後の現場で、高齢者がどう暮らしているのか。どういう仕組みをつくって動いているのか。何が必要なのか。実際に労苦して活動している人の声を仔細に聞くこと。
このまま進んで清家さんの整理にまかせることで「報告書」は作れるだろうが、それではこれまで労苦してきた先人に恥じ、これから苦労することになる後人にも恥じる結果になりかねない。衆知を集めて議論して広く知られる「新たな大綱」としなければ、増えつづけていまや三〇〇〇万人に達する高齢者に、新たな「高齢社会」の当事者意識は生まれず、参加の機会もつくれない。ここで社会参加の意識を生めないようなら、この国をここまで成し遂げた人びとの高齢期人生を、政治は見捨てることになる。
蓮舫大臣、あなたは初会合の終わりに顔を出して、広い会議室で五人のメンバー(弘兼委員は二度とも欠席)とテーブルをはさんで坐ったとき、前例のない高齢社会に対する「新しい大綱」を仔細に検討し、成果を得て、責任者として国民に報告できるとほんとうに納得できたのでしょうか。
前例のない「日本型高齢社会」を世界に先駆けて実現する高齢者。その多種多彩な人生への構想力に理解を持たない担当大臣として、このまま通すなら資格を問われざるをえない。野田総理は任命責任を問われることになる。
このところ「少子化・高齢化」を兼務することが慣例になっていたとしても、この際はそれにふさわしい人物を特任すべきであろう。与謝野馨さんはみずから申し出て「少子化担当大臣」をやったではないか。すぐれた担当大臣の特任、そうしてこそ「正心誠意」のこもった総理の意思表示となるのではないか。
国・自治体のこれ以上の対応の遅れは、「日本高齢社会」形成のチャンスを失うことになり、この国の高齢者の人生を丸ごと不幸にしかねない。
一月一二日開催のふたつの会に注目
この国の高齢者の人生を丸ごと不幸にする方向に向かっているというのは言い過ぎではない。何よりの証しは、一九九九年の「国際高齢者年」に全国的に展開した活動をまとめあげた総務庁高齢社会対策室のような導線の太い中央組織が壊滅状態であり、内閣府に「専任」でかまえる高齢社会対策担当大臣がいないことだ。
野田総理は、千里の道を遠しとはせず、まずはその第一歩を足下の内閣府構成メンバーの立て直しから始めること。高齢社会対策担当大臣、副大臣のもとに、専任の審議官、政策統括官、参事官などがそろった高齢社会対策のための太い導線を敷くこと。その上で一〇年ぶりの「大綱」の見直しを多くの人びとの参加を得て進めても遅くはない。中長期の新しい国づくりの指針として作成するはずのものだからである。そうあってはじめて、国際的にも誇れる「日本高齢社会」達成への道は緒につくのである。
平成一三年のあと、中間の平成一七年~一九年におこなわれた今後のための検討会、そして今回の有識者各委員がそれぞれの立場で提供した意見は貴重であり、その労を無視するわけではないが、もっともっと各界を代表する有識者の声を聞き、広く高齢者の意向を反映した素案が作成されねばならない。
全国の高齢者のみなさん、平成二四年一月一二日、蓮舫担当大臣のもとで内閣府で開かれる「第三回高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会」に注目してほしい。
そして同日同時に、近くの憲政記念館会議室で、高連協(高齢社会NGO連絡協議会)が開催する「高齢社会大綱の見直し」に対する「高連協提言」発表会を合わせ注目してほしい。(二〇一一年一二月二八日)
参考著書
『丈人のススメ 日本型高齢社会 「平和団塊」
が国難を救う』(武田ランダムハウスジャパン・
二〇一〇年七月刊)
丈人論-第1回「エキスポS65+」が開催される<1>
◎わが国初のシニアの祭典「エキスポS65+」
元気シニアを対象とするわが国初の総合イベント「エキスポS65+」は、幕張メッセを会場として、11月15・16・17日の3日間、開催されました。
11月15日朝、晩秋の明るい陽ざしのなかを、ご夫婦で、グループで、お一人で会場へ急ぐ元気シニアのみなさんの姿がありました。幕張メッセまでの道のりを遠しとせず、各地から来場した高齢者のみなさんの参加によって、「エキスポS65+」は、1999年の「国際高齢者年」以来初めて、高齢先進国・日本の高齢者から、世界のそしてこれから高齢者になる人びとへの「日本高齢社会」形成にむけた具体的なメッセージとなりました。
初日10時からの開会式では、当イベント開催に強い期待を寄せる野田総理からの祝辞が披露されました。「団塊世代」が高齢者(65歳)に達する来年を前にして、10年ぶりに「高齢社会対策大綱」の見直しに着手し、検討にあたって総理が「高齢者の消費をどう活性化していくのか」を基本的な視点に加えるよう指示したことは前回に述べたとおりです。
開会式で披露された各界の方々からの祝辞を紹介しますと、ことし100歳になられた日野原(重明)さんは「75歳以上の高齢者(新老人)が今までやったことのないことに挑戦する」意義を述べられ、米寿の経済人品川(正治)さんは「悲惨な戦争を体験した国民として平和の尊さを次世代に伝承する」願いを訴えられ、学者の小宮山(宏)さんは「高齢社会のモデルをつくることが世界史的な貢献」と目標を示され、高連協両代表である樋口(恵子)さんは「人生100年の初代として力を尽くそう」と呼びかけ、堀田(力)さんは「この祭典が自分の生き方の道案内となること」に期待をかけておられます。これらは本イベントの指針として活かされることになるでしょう。
ひと足先に9時30分に開場した展示エリアでは、すでに来場者と出展社の若い社員とのやりとりで賑わっています。10時30分からはジャーナリスト鳥越(俊太郎)さんの基調講演「歳には、勝てる」、昭和女子大学長坂東(真理子)さんの「さびない人生」、俳人大串(章)さんの「秋の俳句を味わう」と3ステージに分かれて、語りあう広場「フォーラム」が始まりました。
わが国の高齢者が持つすぐれた知識、技術、健康そして資産がみずからのシニアライフに活かされることで、「日本高齢社会」は豊かな内容をもつことになります。そのための「エキスポS65+」が将来にむけて出立できたことを、開催に力を尽くした主催関係のみなさん、出展社、講演・出演者、ウオーク支援者そして趣旨に賛同して訪れたすべての来場者のみなさんとともに心から祝いたいと思います。
それとともに、さらに多くの高齢者に本イベントの趣旨が知られて、力を合わせて苗を穂とし、穂を実としていくよう努めることが何より大切であることを、会場のざわめきの中にいて強く感じたのでした。(次は12月5日)
「S65+」カンファレンス・スーパーバイザー
堀内正範
丈人論―「エキスポS65+ 第1回」を迎えて<3> ―
◎元気な65歳+のみなさんは「全員集合!」
11月15日、「第1回・エキスポS65+」は開幕します。
毎年、晩秋に「エキスポS65+シニアの祭典」が開かれることになる幕張メッセ会場は、将来への展望を考慮すれば、この総合イベントにふさわしい。
優れた生活意識をもつ日本の高齢購買層のみなさんが、いつまでも途上国製品にうずもれて暮らしつづけることはありえないでしょう。「グローバル化」(日本の途上国化・アジア途上諸国の日本化)が一段落して、アジアの人びとがどうやら豊かになれることが見えたところで、一歩進んだ「やや高安心の国産優良品」がわが国の高齢者の生活にうるおいをもたらすことになるでしょう。足踏みしていた日本企業の高年技術者が産み出す高齢者むけ製品は、これから高齢社会を迎える各国の注目を浴びることになり、内需拡大と国際性が確実に見込まれるからです。今回の「エキスポS65+シニアの祭典」はその第一歩であり、具体的に多くを期待することはできませんが、そこに向かう意欲と契機は会場にあふれていることでしょう。
そして出番を感じて、新たな居場所を求めて、孤立を脱するために、将来に備えるために、65歳+のみなさんが幕張に集まってきます。
展示会場の中心には、将来のシニアマーケットを模索してさまざまな小売・製造企業が出展しており、暮らしの現場に配慮した衣・食・住・趣味・健康・備えといったエリアごとの各ブースでは、「造る者」と「使う者」が触れては語り、選んでは語り、次の製品に期待する語りあいの場がそこここに見られるでしょう。みなさんより若い企業現場の社員たちはそこから多くのきっかけを得られるはずです。企業のPRセミナーもぜひ見た上で、高齢者の立場で、とくにご夫婦で、家庭内にうるおいをもたらすさまざまな製品への要請を出してほしいのです。生活意識の高い来場者からの要望は、新たな高齢者向け国産優良製品を産み出すきっかけになるに違いありません。
野田総理が10月14日の「高齢社会対策会議」で、「居場所と出番」「孤立防止」「現役時代からの備え」とともに新たな視点といって期待する「高齢者の消費の活性化」は、当事者である高齢者が企業現場に直接に要請する幕張メッセから始まるといっていいでしょう。高齢者が使いやすいモノや安心して暮らすためのサービスは「高齢社会」形成の基盤を造ることになります。
多彩なフォーラムは高齢者の明日の安心への生き方を示してくれるでしょう。16日の「高連協ディベート」は注目です。議論の展開によっては、高齢社会先進国の日本から世界にむかって「幕張宣言」が発せられるかもしれません。
なにはともあれ、11月15日は「元気な高齢者のみなさん、全員集合!」の時なのです。(次回は11月25日)
「S65+」ジャーナル
堀内正範(カンファレンス・スーパーバイザー)
丈人論―「エキスポS65+ 第1回」を迎えて<2> ―
◎「エキスポS65+」は「最先端のモデル」をつくる
千葉県初の宰相である野田佳彦総理は、15日の幕張メッセ「エキスポS65+」開会のときに祝辞を寄せてくれる手はずになっており、すでにイベントの情報はお手元に届いています。
野田総理は10月14日の朝、官邸でおこなわれた「高齢社会対策会議」(第20回)の席で、10年ぶりの「高齢社会対策大綱」の見直しにあたって、
「人類史上、前人未到のスピードで高齢化が進んでいると思いますが、悲観的になるのではなく高齢化社会にしっかり向き合って世界最先端のモデルを作っていくということが、大綱作りの基本的な考え方になると思います」
と前置きした上で、
「一つは、高齢者の居場所と出番をどう用意するか、二つ目は高齢者の孤立をどう防いでいくか、三つ目は現役時代からどう高齢期に備えができるのか、以上三つが基本的な視点ですが、あえてもう一つ付け加えるならば、高齢者の消費をどう活性化していくのか、ということも大事な視点だと思います」
と基本的な視点を提示しました。三つはすでに『高齢社会白書』にも述べられている内閣府の対策項目ですが、一つ付け加えて「高齢者の消費をどう活性化していくのか」といったとき、「S65+」が念頭にあったかもしれません。
「S65+ シニアの祭典」の立場からすれば、総理、まだそんな総論をいっているのですか、といいたいところです。「居場所と出番」を用意しているし、「孤立」を防ぐ集いであるし、「高年期の備え」を示そうというのですし、それに加えて「高齢者の消費をどう活性化していくのか」は、本イベントの中心課題なのですから。65歳以上の高齢者が健康であり、物心ともに暮らしが豊かになり、安心して過ごせることをめざして開催する初の総合イベントなのですから、「最先端のモデル」をつくることになります。
「S65+」こそ、総理が期待する高齢社会対策に沿う民間主導の総合イベントなのです。国・自治体の10年の対応の遅れがこの国の高齢者の人生を安心から遠くしているのです。1999年に全国展開した「国際高齢者年」の活動をまとめあげた総務庁高齢社会対策室のような太い動線をもつ組織がありませんし、何より首相直轄の内閣府に「専任」でかまえる高齢社会対策担当特任大臣がおりません。野田総理、これこそ検討すべき第一の基本的課題です。
65歳+のみなさんを迎えるメッセ会場の準備は整いつつあります。マラソンの瀬古さんとの8kmウオークもよし。鳥越さんのガンに勝つ生きざまや65歳新入生である坂東学長の品格ある講演を聴くもよし、樋口さん・堀田さんの白熱シニア公開討論会に参加するもよし。展示会場では宅配弁当の試食やサンプル・サプリのお試し、メディカルサポート、ヘアケア、無料健康相談、無料相続相談、無料最新健康機器の試用などなど、そのあと休憩コーナーで出会った同年の人と懐かしい思い出話に興じるもよし。多彩な出会いの場を用意した「シニアの祭典」の開会は眼の前まで迫っています。(次は11月15日)
「S65+」ジャーナル
堀内正範(カンファレンス・スーパーバイザー)
丈人論―「エキスポS65+ シニアの祭典」を迎えて<1>―
◎みんなが楽しめる「シニアの祭典」
11月15日~17日の開催にむけて、「エキスポS65+シニアの祭典」の展示会、フォーラム、ウオーキング用それぞれの広報パンフレットができあがりました。先後しますから目に止まる時と場は異なるでしょうが、おおかたは興味深く受け止められているようです。フォーラム、ウオーキングは個別ですが、中心となる展示会用は「総合パンフレット」(4つ折り、B5仕上がり)になっていて、これが多く出回り、会場に持参して割引用になります。
こういう時節ですから、意図どおりの反応でない批判や疑問もあります。そのひとつに「元気な65歳以上のあなたのための祭典」というのだから高齢シニアだけが対象で、60歳になったばかりの団塊世代の人や子どもや孫たちはおよびでないのか、というものです。主催者としては、孫をつれて、子とともに、夫婦でもよし、仲間同士でもよし、もちろんひとりでもよし、それでも主体になるのは65歳+の人びとであってほしいという願いをこめた呼びかけにちがいないのです。
善意で使う「みんなのため」は、主体者を示さないために力にならない例にこと欠きません。新世紀での高齢化社会を予測して、国連は1999年を「国際高齢者年」と定めて、「すべての世代のための社会をめざして」をテーマにしました。21世紀初頭に高齢期を迎える人びとに「高齢者意識」を求めなかった“国連の善意”は、実際の活動を強めることに向かいませんでした。
平成7年(1995年)に成立した「高齢社会対策基本法」の前文は名文です。
「我が国は、国民のたゆまぬ努力により、かつてない経済的繁栄を築き上げるとともに、人類の願望である長寿を享受できる社会を実現しつつある。今後、長寿をすべての国民が喜びの中で迎え、高齢者が安心して暮らすことのできる社会の形成が望まれる。そのような社会は、すべての国民が安心して暮らすことができる社会でもある」
これは当時の国民の声の表現なのですが、だれがどうするかの指摘がない主体者不在の名文なのです。みんなが安心して暮らせる社会をつくるための「元気な65歳以上のあなたのための祭典」であり、みんなで集って「新感覚のライフスタイル」を考えてほしいという願いがこめられた呼びかけなのです。
「総合チラシ」の表紙は、イベント対象となるシニア代表のご夫婦によるカバー写真。秋の昼近い明るい野にふたりが立っている。視線の先で見ているもの(未来)はすこしずれていても手でしっかりとつないでいる。女性のスカートの藍色をうすく遠く引いたバックの群青色の背景はやさしい。白抜きのキャッチ「知らなかった、こんなイベントがあるなんて!」もそのとおりでいい。
とくに新聞折り込みでこの「総合ちらし」に出会ったら、上に述べたように「わが国の高齢社会」を築き上げるためには65歳+のみなさんの意識的な活動があってはじめて達成に向かうのだという、主催者から主体者への熱い呼びかけだと理解してほしい。みんなが安心して暮らせる社会を実現するための「元気な65歳以上」に対する呼びかけであって、本意はみんなの祭典なのです。それもあって3日目の17日は「三世代交流」を企図した構成を試みています。
ご夫婦でもよし、仲間同士でもよし、孫をつれても、子とともにでもよし、ひとりでぶらりでもよし。このパンフレットを手に、みんなが楽しめる「幕張メッセシニアの祭典」に出かけてほしいのです。(次は11月5日)
「S65+」ジャーナル
堀内正範(カンファレンス・スーパーバイザー)
丈人論―「強い高齢社会」へのイベントづくり<6>―
◎「エキスポS65+」のイベント内容が固まる
「敬老の日」(9月19日)に発表された総務省推計では、「S65+」が対象とする65歳以上が2980万人に達して、来年は3000万人を超えるといいます。人口に占める割合が23・3%となり、わが国は世界最速で長寿時代を迎えています。にもかかわらず、しっかりした「高齢社会」形成への構想が示されているわけではありません。増えつづけている元気な高齢者が安心して暮らせる社会の姿がみえない。
そんななかで「エキスポS65+」は、具体的な目標と内容を掲げて、先陣ののろしをあげることになりました。11月・幕張メッセに、元気な65歳+の高齢者のみなさんが、さまざまな関心で集う「シニアの祭典!」。エグジビション、フォーラム、ウオーキングそれぞれの内容が固まり、来場者を沸かせるにちがいないいくつもの催しを展開しようとしています。
内容については「TOPページ」から、「エキスポS65+のご案内」へ。そこからさらに「展示ブース」へ、「語りあうフォーラム」へ、「未来都市MAKUHARIウオーク」へと内容は多彩に広がっていきます。集まった人みんなでイベントを盛り上げることによって、「高齢社会」の主人公としての存在感を示すことになります。
「知らなかった、こんなイベントがあるなんて!」
そういって晩秋の3日間を、歩いて、語りあって、見て触って確かめて、1000円(割引利用)で楽しむことができるのが「幕張メッセ、シニアの祭典」なのです。会場内のゆったりとした「休憩コーナー」では、大戦後60年をかけてこの国を築きあげてきた者同士が、高齢期の人生をどう過ごすか、後人に何をどう残すかについて、親しく会話を交わす姿が見られるでしょう
健康の証として歩くことに関心をもつ人は、16日・17日両日のウオーキング(6コース)に参加することができます。16日には体操の早田卓次さんほか、17日には瀬古利彦さんほかの有名オリンピアンも参加する特別企画「オリンピック選手と一緒に歩こう」が行われます。
「シニアライフを語り合うフォーラム」は、15日~17日の3日間に30ステージを設けています。鳥越俊太郎、坂東真理子、服部幸應、半藤一利さんといった知名人の講演や、高齢者にとって身近な課題である「年金」「ライフプラン」「生涯学習」「NPO」「地域活動」などの談論の場や、フラ・フェスティバルやシニア・ファッションショーといった実演まで多彩にそろえています。高連協が特別協力していますので、樋口恵子、堀田力両代表が参加するフォーラムもあり、「高齢社会」に対する熱い議論が期待されます。
イベントの中心になる新製品やサービスの展示会場。将来のシニアマーケットを見通してさまざまな小売・製造企業が幅広く出展しており、暮らしの現場に配慮した衣・食・住・趣味・健康・備えといったエリアごとの各ブースでは、「造る者」と「使う者」が連日、暮らしに便利な日用品やサービスをめぐって熱心な論議を繰り広げることになります。生活意識の高い来場者からの要望は、新たな高齢者向け国産商品を産み出すきっかけになるに違いありません。
さあ、ここから何がはじまるか、注目です。「エキスポS65+」が「強い高齢社会」形成へのさきがけとなることは確かです。(次は10月25日)
「S65+」ジャーナル
堀内正範(カンファレンス・スーパーバイザー)
丈人論―「強い高齢社会」へのイベントづくり<5>―
◎「エキスポS65+出展社説明会」から(2)
東京国際フォーラムB5ホールで開かれた「エキスポS65+出展社説明会」で、運営事務局からはイベントの中心である展示会の開催概要について、仔細な説明がおこなわれました。そのなかで注目されたのは、シニアマーケットの現状についての報告です。
営業を通じて接した数百社の企業から得た感触として、メーカーに比べて消費者に近い小売企業のほうが、高齢化対応の緊急性を切実に理解しているということでした。消費者と距離のあるメーカーにはまだ「対岸の火事」とみてシニアシフトに遅れをとっているところもあり、そのことが展示会にも反映している旨の実情が伝えられました。
新たな展開としては、消費者から肌で感じたニーズを小売企業がメーカーに伝えて商品化をすすめるといった動向がみられ、そのことからも今回一足先に出展して多くの来場者と接することがエンドユーザーの要望をキャッチするチャンスになるという出展のメリットを合わせた指摘がなされていました。
高齢者の購買力に関しては、シニアは自分が使うものばかりでなく、子どもや孫世代に関するもの、たとえば家のローン、教育費、ランドセル、自転車、学習机、ケイタイ、パソコン、振袖、はてはクルマの購入や家族旅行まで支援することになるという将来予測の紹介もありました。広報については多種多様な媒体を組み合わせたきめ細かな手法の説明もなされていました。
設営事務局からは、出展企業に対しての施設概要、交通機関の案内、搬入搬出や出展コマでの営業のしかたなどについての説明があり、そのあと休憩をはさんで、団塊の世代である岡田晃氏(経済評論家・日経新聞OB)による「超高齢社会の企業戦略―シニア市場の可能性とマーケテイング」と題した講演がおこなわれました。
9月の東京フォーラムにいながらわたしは、3つのイベントの概要を一足先に知り得た立場で、11月のメッセ会場のざわめきを想像しておりました。青少年期・中年期をかけてともにこの国を築いてきて、なお元気で高齢期を迎えている65歳以上の人びとが集って、同時代人としての親わしさと懐かしさに溢れた談論の輪をあちこちに展開しており、わたしもひと時そのなかに紛れて、ともに幸せを感じているようでした。
「出展社説明会」に参加していた“若い企業人”のみなさんは、その渦のなかで、たくさんの高齢者から激励と期待のことばを浴びながら、その時はじめて「S65+」のめざすものが何であるかを知ることになります。これは初回に参加したものに許される出会いの喜びです。
それが幕張メッセで初めてのことであり、全国で初めてのことであり、世界の高齢者にむかって先進長寿国であるわが国が発信することができる「日本高齢社会」形成へのメッセ・メッセージなのです。(次回は10月15日)
「S65+」ジャーナル
堀内正範(カンファレンス・スーパーバイザー)