湖の恵みを知る開放都市
彦根市と湘潭市
両国を代表する湖といえば、琵琶湖と洞庭湖。
琵琶湖のある滋賀県と洞庭湖をもつ湖南省という「湖の恵み」を知る者同士が友好省県になったのは、一九八三年三月のことだった。
両省県の友好提携の調印式は、琵琶湖の遊覧船「ミシガン」の船上でおこなわれた。
その後の市町村レベルでの友好提携として、「湖東の中核都市」彦根市と「湖南の名鎮」湘潭市とがつづいた。
唐代から一三〇〇年余の歴史を誇る湘潭市から、彦根藩井伊家の城下町として歴史を刻んできた彦根市へ提携の希望が伝えられたのが八六年であった。それから相互交流がはじまった。とくに八七年の「彦根世界古城博覧会」に、湘潭市で発掘された殷代の「青銅豕尊」(豚の形をした酒器。重点保護文物)の出品を得たことで、両市の信頼が深まり、市民の間に関心が広がった。
そして九一年一一月一日、彦根市へ湘潭市の範多富市長ら代表団を迎え、獅山向洋市長との間で、友好都市提携の調印式がおこなわれた。
湘潭市は、湖畔ではないが、洞庭湖へと注ぐ湘江に面した水運の中継地であり、「金湘潭」と呼ばれるほどに商業で栄えた。現在は工業都市化に力を入れている。省都の長沙からは南へ四〇キロ。北京―広州と上海―昆明の交通路が交差する通運の拠点であり、「開放的湘潭」をめざしている。毛沢東主席の生地である韶山には、故居や記念館がある。人口は約二八〇万人。
彦根市は、国宝彦根城を擁する国際観光モデル都市である。江戸の息吹きを町並みや四季の行事に織り込みながら、「異文化が交流し、世界に開かれたまち」をめざしている。外国語の案内板や広報紙の発行、ボランティアの育成を進め、三〇余カ国の人びとが暮らしている。人口は約一〇万人。
主な友好交流活動に、市代表団の相互訪問、国際交流員や研修生の受け入れ、中学生の交流、書画展、湘潭市での「毛沢東生誕一〇〇年記念事業」(九三年)や「斉白石国際文化芸術祭」(〇四年)への参加などがある。
二〇〇一年一一月に、彦根市で開かれた一〇周年記念式典は、新世紀の交流を協議する場となった。文化と経済、そして中学生の相互交流など「友誼長存」のために教育に重点を置くこととなった。
記念式典での湘潭市児童芸術団の歌舞公演は、彦根市民のあたたかな共感で迎えられたが、日本の福笑いに興じ、給食に戸惑い、ゴミ分別システムに驚く団員の感想もまた率直だった。教育を大切にする両市の交流の成果が期待される。(二〇〇八年九月・堀内正範)