現代シニア用語事典-「日本長寿社会」の国際的評価

「日本長寿社会」の国際的評価
「二一世紀初頭の日本は、平和憲法のもとでの長い平和時代の証として、みんなが安心して暮らせる高齢社会を達成した。それは後れて高齢化を迎えるアジア途上諸国の規範とされた・・」
と、歴史学者は記すにちがいありません。当事者の視点と歴史学者の視点とはちがいます。学者は主観性を排除して与件の経緯を精査して机上で記録し、当事者は客観性を懐疑して現場で述懐するからです。どちらの判断もおおよそ正しいのですが、どちらも幾分かの過ちをおかすことになります。
平和であること、衛生と医術と食生活の改良が日進月歩で進み、何よりもみんなが等しく豊かになることを願ってきたわが国の半世紀のプロセスは、世界にそして歴史に誇るべき例証です。
その方向でいまあるべき姿は、「社会保障増税」の論議を繰り返すのではなく、1995年の「高齢社会対策基本法」の立ち位置にもどって、1980年代の日本を継承する「日本長寿社会」の構想(国策)を衆議し、国民に提案することなのです。
それなのに、です。
民主党政権になって、理想家肌の鳩山由紀夫首相の発言に期待したのでしたが、二〇〇九年一〇月の所信表明演説では「無血の平成維新」といって勝利を誇ったものの、高齢者に参画を求める発言はしませんでした。さらに「いのちを、守りたい」と訴えた翌年一月の施政方針演説でも、「誰にもみとられずに死を迎える」いたましい事例を取り上げましたが、ご自分が属する還暦・定年期の仲間に参画を呼びかける発言はなかったのです。
菅直人首相も「強い社会保障」をいうばかりで、若い世代に後を託して去ってしまいました。
呼びかけを期待していた「支える高齢者」層にとっては何のメッセージもありませんでした。
野田総理はチャンスを得ているのに、逆の方向に動いています。
昨年一〇月一四日の「高齢社会対策会議」で、一〇年ぶりの「大綱」の見直しに際して、「高齢者の居場所と出番の用意」「高齢者の孤立の防止」「現役時代からの備え」という三つの基本的な視点を示したあと、
「あえてもう一つ付け加えるならば、『高齢者の消費をどう活性化していくのか』ということも大事な視点ではないかと思います」(会長発言)
といって、「高齢者の消費の活性化」を視点に加えました。野田さんが求めてもぐった方向は間違ってはいないのですが、論点も行程もなお底を究めていないのです。
国民の暮らしの現場を、高齢者の視点で見てください。
「モノの日本化」によってアジア途上国の人びとが得る生活上の便利さ豊かさのために、日本の高齢者は、みずからは足踏みをして「百均商品(用品)」に囲まれながら、「暮らしの途上国化」に耐えて待ってきたのです。かつて自分たちがこの国でたどってきた道だからで、これから自らと途上国の将来の高齢者が必要とする「安心して使える優良品」を作り出すために、温存してきた知識と技術を活かすことになるのです。ですから元気で生活意欲の旺盛な高齢者に向かって、「生産と消費の活性化」(内需)への参画を期待するというのが論点であり行程なのです。
現役世代よりも生活感性の高いシニア世代が求める「優良国産品」を、どこまで速やかに市場化できるか、その対策ができない消費税増税では消費の活性化は起きません。
「安心して使える優良国産品」の製造者は、消費者でもある熟年技術者のみなさんです。このことにも留意しなければならないのです。「モノとサービスの高齢化」は、時代感覚のいい企業の側ではもう動き出しているのです。
シニア社員・社友が力を合わせた新企画・リニューアル企画による新製品の製造、「シニア・ビジネス」としての流通やサービスの展開、そして商品・サービスと高齢者を直接に結ぶ展示会など、「内需」にむけた事業が進んでいます。熟年技術者による「国産優良品」の製造は、高齢者向けのモノの豊かさを提供し、後れて高齢化する国々の高齢者にとって「期待する日本製品」の創出でもあるのです。
これらによる経済刺激と展開が、増税よりはるかに大きな成果を持続的に生むことは必定です。
「大天災」を受けることで気づいた「天恵」としての「地域の四季」を大切にする暮らしの掘り起こし、「支える高齢者」層がリードする「平成再生」の構想が明らかになれば、わが国の高齢者は高年期の人生の充足をめざした地域活動を活き活きと始めるにちがいありません。
家計資産については、およそ三分の一を留保した上で、次世代のための支援に三分の一を、「長寿社会」達成のモノ・居場所づくりなどに三分の一を出資することが日常化し、次第に「三世代が等しく支え合う(三世代同等型)社会」の姿が見えてきます。
「ケア」については「社会保障」政策によって進んでいる「地域包括ケア」の充実と医療・介護・福祉関連の機器の開発と普及は欠かせませんが、暮らしの必需品それぞれに高齢者仕様の配慮が仔細になされることになるでしょう。
「支える高齢者」が関心を持つ「健康(からだ)」・「知識(こころ)」・「技術(ふるまい)」の三つの要素に特化した成果は、次世代に将来への安心を与える資産ともなるものです。
こうした高齢者参加への施策こそ国際的に先行する「日本高齢社会」のなすべき国際貢献なのです。いまの国政の意図する方向は、学んでほしくない事例になりつつあります。