春山如笑 しゅんざんじょしょう
季節の変化の気配を鋭く捉えてきた先人の感性は俳句の季語に多く見ることができる。春の季語に「山笑う」があって、子規にも「故郷やどちらを見ても山笑う」の句がある。春山を巧みに表現するこの季語は「春山如笑」が典拠である。
冬のあいだ睡っていた山が春の訪れを察知して動き出す。木々の芽がそれぞれいっせいに際立ってくると、山全体が日また一日とはなやいで「春山如笑」といった姿になる。山がひとまわり大きく見える。人の心もおおらかになる。
北宋時代の画家郭煕の「山水訓」には「春山澹冶にして笑うが如く、夏山蒼翠にして滴るが如く、秋山明浄にして妝うが如く、冬山惨淡にして睡るが如し」とあって、四季の山の変化を巧みに表現している。
「夏山如滴」(山滴る)も「秋山如妝」(山妝う)も「冬山如睡」(山睡る)も、どれもみなそれぞれに味わいがある四字熟語だが、ひとつ選ぶとなると、やはり「山笑う」のもととなった「春山如笑」となるだろう。
宋・郭煕「山水訓」から
『日本と中国』「四字熟語ものがたり」 2011・5・5号
堀内正範 ジャーナリスト