新情報--高齢社会対策大綱の見直し 1

高齢社会対策大綱の見直し 1
堀内正範
朝日新聞社社友
高連協オピニオン会員 

◎ 第二〇回高齢社会対策会議  

平成二三(二〇一一)年一〇月一四日(金)、首相官邸。
蓮舫担当大臣の趣旨説明。 
[本日は新しい「高齢社会対策大綱」の検討についてお諮りいたします。「高齢社会対策大綱」とは「高齢社会対策基本法」六条にありますように、政府が推進すべき高齢社会対策の指針です。政府が推進すべき「高齢社会対策」の中長期的な指針として、平成一三年一二月に閣議決定されたものです。] 

遠く昭和六一(一九八六)年に「長寿社会対策大綱」としてまとめられ、平成七(一九九五)年の「高齢社会対策基本法」の制定のあと、平成八(一九九六)年に「高齢社会対策大綱」となり、世紀をまたいで前回の平成一三(二〇〇一)年の「大綱」の閣議決定。
[ 経済社会情勢の変化等を踏まえて、必要があると認めるときに見直しをおこなうものとされています。来年以降、団塊の世代が六五歳に達し、わが国の高齢化率がさらに伸びることが見込まれています。こうした経済社会情勢の変化を受けまして、政策面では本年六月三〇日に「社会保障・税一体改革成案」が取りまとめられたなどの進展がみられます。これらのことから、平成二三年度内の閣議決定を目途に、新しい大綱の案を作成することにしたいと思います。この点についてまずご了承いただけるでしょうか。]
了承の声。
[ それでは大綱の見直しに当たりまして、会長であります内閣総理大臣からお考えをお願いいたします。] 

「高齢者の消費の活性化」を視点に加える

[ はい。おはようございます。]
野田総理の発言・・ 。
 [ まさに人類史上、前人未到のスピードで高齢化が進んでいると思いますが、悲観的になるのではなく、高齢社会にしっかり向き合って、世界最先端のモデルを作っていくということが、この大綱作りの基本的な考え方になるだろうと思いますので、私のほうからは三点、基本的な視点を提示をさせていただきたいと思います。 一つは、高齢者の居場所と出番をどう用意するか、二つ目は高齢者の孤立をどう防いでいくか、三つ目は現役時代からどう高齢期に備えができるのか、以上三つが基本的な視点ですけれども、あえてもう一つ付け加えるならば、「高齢者の消費をどう活性化していくのか」ということも大事な視点ではないかと思います。・・ こういう考え方をもとに大綱作りについてのご議論をキックオフしていければと思いますので、よろしくお願いをいたします。]
(注:高齢社会対策担当大臣は2012年1月13日の内閣改造で岡田副総理に。)
 ◎ 六人の有識者で「大綱」を見直し  

素案の原案を作るために設けられる「高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会」の有識者委員の顔ぶれ。
前回の平成一三年の時の検討会委員(清家篤座長)は各界からの一三人であった。中間の平成一七年~一九年に「大綱見直し」の参考にする前提で開催された「今後の高齢社会対策の在り方等に関する検討会」(清家篤座長)では専門学者を中心に一〇人のメンバーが検討をおこなっている。ここは大学の現役学者ばかりでなく、体現者である高齢者の代表、活動の実践者、シニア・グッズの生産者やサービスの提供者、団塊世代の代表、さらには東北の被災地でいまその課題に直面している人びとといった多方面の現場からの要望の集約が必要であろう。各界からの声を多く聞き、多くの国民に理解をしてもらう機会とせねばならないからである。
ところがどうしたことか委員は六人に減らされている。六人の有識者委員というのは、次の方々である。

 座長 清家篤 慶応大学塾長(1954~)
香山リカ 精神科医 立教大学現代心理学部映像身体学科教授(1960~)
関ふ佐子 横浜国大大学院国際社会科学研究科准教授
園田真理子 明治大学理工学部建築学科教授
弘兼憲史 漫画家(1947~)
森貞述 介護相談・地域づくり連絡会代表(前高浜市長)(1942~)
 前回座長であった清家塾長がいるとはいえ、このメンバーだけで見直しの素案を得ることに納得は得られないだろう。しかもわずか四回の会議で意見をまとめ、内閣府で整理して二三年度中に「高齢社会対策会議」に報告するという「快馬に加鞭」ぶりである。成案はすでに出来ているといわんばかり。
座長は当然のこと清家塾長が担当し、すでに一〇月二一日、一一月二五日と二度おこなわれている。このあと年明けの一月一二日には「素案」についての議論がなされ、二月二日には「報告書」のとりまとめをおこなうという。
すぐれた法改正ができたとしても、体現する国民が構想や対策の内容を知らず理解できずに、だれが実現してその成果を享受できるのか。
案に相違せず、一〇月二一日の「第一回検討会」の冒頭で、原口剛参事官から「高齢社会対策主要施策の推移」「高齢社会の現状」の説明ということで、さまざまな関連法や現状についての「非常にたくさんのデータ」の説明が「簡単」になされて、委員からは何の質問もなしに通過している。
こういうプロセスそのものを見直して、国民に周知する機会とせねばならないのに。これもやはり責任は担当大臣にある。
このまま進んで清家さんの整理にまかせることで「報告書」は作れるだろうが、衆知を集めて議論して広く知られる「新たな大綱」としなければ、増えつづけていまや三〇〇〇万人に達する高齢者に、新たな「高齢社会」の当事者意識は生まれず、参加の機会もつくれない。ここで社会参加の意識を生めないようなら、この国をここまで成し遂げた人びとの高齢期人生を、政治は見捨てることになる。
国・自治体のこれ以上の対応の遅れは、「日本高齢社会」形成のチャンスを失うことになり、この国の高齢者の人生を丸ごと不幸にしかねない。

一月一二日開催のふたつの会に注目

野田総理は、千里の道を遠しとはせず、まずはその第一歩を足下の内閣府構成メンバーの立て直しから始めること。高齢社会対策担当大臣、副大臣のもとに、専任の審議官、政策統括官、参事官などがそろった高齢社会対策のための太い導線を敷くこと。その上で一〇年ぶりの「大綱」の見直しを多くの人びとの参加を得て進めても遅くはない。中長期の新しい国づくりの指針として作成するはずのものだからである。そうあってはじめて、国際的にも誇れる「日本高齢社会」達成への道は緒につくのである。
平成一三年のあと、中間の平成一七年~一九年におこなわれた今後のための検討会、そして今回の有識者各委員がそれぞれの立場で提供した意見は貴重であり、その労を無視するわけではないが、もっともっと各界を代表する有識者の声を聞き、広く高齢者の意向を反映した素案が作成されねばならない。
全国の高齢者のみなさん、平成二四年一月一二日、蓮舫担当大臣のもとで内閣府で開かれる「第三回高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会」の報告書素案に注目してほしい。
そして同日同時に、近くの憲政記念館会議室で、高連協(高齢社会NGO連絡協議会)が開催する「高齢社会大綱の見直し」に対する「高連協提言」発表会を合わせ注目してほしい。(二〇一一年一二月二八日) 

◎参考著書
『丈人のススメ 日本型高齢社会 「平和団塊」
が国難を救う』(武田ランダムハウスジャパン・
二〇一〇年七月刊)