四字熟語-信言不美

信言不美
しんげんふび

老子は「信言は美ならず」という。心に響く信言というものは必ずしも美しくはないという。美しく整えようとすることで失うものがある。老子にはまた「大弁若訥」(大弁は訥なるがごとし)があって、まことの弁舌は訥々としているものだ、という。努力してもさわやかな弁説とはいかない人には実感のあることばだろう。訥々とした語り口のなかに「大弁」を聞く老子の人間理解には、限りない優しさと率直さを覚える。
周末のころ、李耳(老子。生没年とも不詳)は、人生の終わりに近く、衰亡の淵にあった周室を離れて西方へと隠遁の旅に発つ。函谷関で関令の尹喜に熱く懇望されて書き残した五千余語が信言集『老子』である。その最後に「為而不争」(なして争わず)と書き、「信言は美ならず、美言は信ならず」と謙遜のことばを残して山中へと消えていった。
われわれの代表として国政に携わる人のことばが心の底にとどかない。老子自身の「大弁若訥」がどんなものだったのかを思う。

『老子「八一章」』から