不争之徳
ふそうのとく
周朝の末期、争いを常態としていた時代に、老子が残した信言集『老子』五千余語(八一章)の最後のことばが「不争」である。
人為に期待しなかった老子が、善き人の為すべき極みとしたのが「不争の徳」であった。
老子はまず「善く士たる者は武ならず」(ほんとうの武人というものは武力をかざさない)と説く。そして「善く戦う者は怒らず」(ほんとうに戦う者は怒りによっては行わない)というのである。怒りによる争いの勝利は怨みを残すからである。さらに「善く敵に勝つ者は与せず」(ほんとうに敵に勝つ者は四つに組んで敵を完敗させるようなことはしない)という。そしてなお「善く人を用いる者は之がために下となる」(ほんとうに人を用いる者は相手の下手に出る)という。
武ばらず、怒らず、完膚なきまでにせず、上手に出ず。これがほんとうの勝者の為すべきことであり、万物を利する水のようであれという。「為して争わず」、人為で争いのない世界をつくるのはむずかしい。
『老子「六八章」』から