兎走烏飛
とそううひ
二〇一一年は辛卯で、うさぎ年。春節は二月三日。そこでうさぎにちなむ華やいだ成語を探したが、多くない。賀状に描かれるさまざまな姿態のうさぎの特徴は長い耳と強い後ろ肢で、いずれも外敵からの保身の器官で、攻め具を持たない。大きな耳で危険を察知して後ろ肢で跳んで逃げる。
三つの隠れ場所をもつ「狡兎三窟」はそのための備えである。だから虎のあと龍の前で威勢よく新春を寿ぎ華やぐものとはなりづらい。思えば子どものころ、採ってきた野草をもぐもぐ食べるうさぎは、生きものへのいとおしさと死の悲しみを教えてくれた。
やさしいうさぎは月に昇った。月にいる玉兎(日本では餅をつき、中国では薬をつくと伝える)と太陽にいる三足の金烏とが日々天空を飛走する。「兎走烏飛」は時が迅速に流れ去っていく例え。身近にいた親しい生きものが日と月に昇ったことに味わいがある。賀状のうさぎのなかでは「鳥獣戯画」のころんだ姿態の一枚が眼裏に残った。
(唐・韋荘「秋日早行」など)