家書万金
かしょばんきん
この度の地震に際して、東京でも電車が止まり携帯電話が通じないため家族との連絡がつかないという経験をした人も多かった。
「家書」はわが家からの手紙。戦乱の中で別れ別れになってしまっている家族からの手紙は、どんなにお金(万金)を積んでもほしい貴重なもの。これはよく知られた杜甫の詩「春望」に出てくる。戦乱で破壊された都長安にとらわれの身であった杜甫は「家書万金に抵る」と家族の安否への思いを詠っている。
「天災人禍」は繰り返し起こって人民を苦しめてきた。最大の「人禍」は戦争だろう。「春望」は「国破れて山河在り、城春にして草木深し」で始まる。この詩句は先の大戦後の復興期によく引用された。戦禍のあと父も母も見たこの国の「青い山脈」は優しかった。
「天災人禍」合わせて襲った被災地で、いまなお家族と音信が途絶えたままでいる人びとの心中が思いやられる。「家書万金」の経験は平和な時代にも起こりうることなのである。
杜甫「春望」より