丈人論 ―大震災を越えて「強い高齢社会」をつくろう<3> ―

 
2011・4・25 
◎「災後復興」の課題を担う 
 東北地方被災地の高齢者の心には、なんとか元にもどしたいという願いとそんなに頑張ってどうするという思いが交錯するといいます。陸地に打ち上げられて大破した船の傍らで、「漁をするより能のない人間だから海にもどりたい」とつぶやく高齢漁師。農地でも商業地でも、黙々と後片づけにむかう人の中に「天災人禍」という二度の災禍の復興に出会った高齢者の姿があります。
 ここで繰り返して確認しますが、「本格的な高齢社会」というのは「病者や要介護者といった高齢者が多くなる社会」ではなく、「元気な高齢者が体現して参画する新しい社会」のことです。もちろん前者をふくめてですが。ですからいまこそ、政治リーダーにはそういう将来の国(地域)の姿を構想し、国民(地域住民)にむかって達成を求める責務があります。ところがなんとしたことか、政権党になった民主党の「マニフェスト」にはそういう視座がまったくありません。ですから参画しようにも高齢者のわれわれには何のメッセージ性もないのです。
 鳩山首相は「いのちを、守りたい」と訴えた「施政方針演説」で、「ひとり暮らしのお年寄りが誰にもみとられずに死を迎える」いたましい事例を取り上げましたが、ご自分が属する「高齢社会」への参画を呼びかける発言はしませんでした。すぐれた厚生大臣であった菅首相は「高齢者は社会の被扶養者」とする政策を引き継ぎ、「強い経済、強い財政、強い社会保障」といいきっています。「福祉・介護・医療」を軸にした高負担の政策がつづかないことに気づきながら、「健丈な高齢者が参画する地域の形成」を軸とする「強い高齢社会」政策の不在が、国民の信頼を失ってきたことに気づいていないのです。
 いま65歳を中心とする50歳から80歳までの中高年者(4800万人)が形成する地域・職域コミュニティーをみんなで構想し、それぞれが保持している知識や技術や資産を有効に活用して、高齢者自身が用いやすい新たな「モノや用具や設備」を工夫し、「居場所や施設」をつくること。力を合わせて三世代がそれぞれに地域の四季を安心して暮らせる「三世代同等型の社会」を築くことが急務とされているのです。
 大震災の復興に努めている高齢者のみなさんとともに全国の地域・職域のあらたな変革に参画すること、それが大増税を避けるため国民全員で負担する「災後復興」の課題です。その活動の中心になるのが「65歳+」の高齢者であるわれわれです。(次回5月5日)