丈人論―「強い高齢社会」へのしくみづくり<3>―   

◎新自治体に「地域大学校」を(2) 
「地域大学校」は全国の県・市でさまざまに試みられていますが、みなさんの自治体ではいかがですか。どこでも横並びで「生涯学習(生きがいづくり)」の充実はめざしていますが、高齢者がもつ知識や技術を活かした「まちづくり・ものづくり」の人材養成をおこなう場としての「地域大学校」となると、取り組みに差があるのが実情です。
ここでは全国に先駆けて1969(昭和44)年に兵庫県が開設した「いなみ野学園」の現状をみながら、他の事例を合わせて標準的な姿を垣間見ておこうと思います。「いなみ野学園」は、1999年の「国際高齢者年」に「いなみ野宣言」を出している先駆的で由緒ある高齢者大学校です。
「高齢者大学講座」(4年制)が中心で、「大学院」(2年制)と「地域活動指導者養成講座」(2年制)があり、約2300人が学んでいます。教養をより高め、仲間づくりの輪をひろげ、新しい生き方を創造し、社会の発展に寄与できるよう総合的、体系的な学習機会を提供するというのが趣旨。資格は60歳以上の県在住者。登校は週1日、年間30回。専門学科は「園芸」「健康づくり」「文化」「陶芸」の4学科。専門講座と高齢期に必要な教養講座を履修します。
クラブ活動が週1回。囲碁、将棋、華道、茶道、書道、俳句、川柳、ゲートボール、コーラス、探訪、詩吟、ダンス、能面、舞踊、民謡、盆栽、謡曲、歌謡曲、表装、手描き友禅、インターネット、ゴルフ、太極拳など30種余。
専門学科の4コース(6月5日に記した「3つのカテゴリー」に見合う)には以下のような特徴があります。
・健康づくり学科―高齢期を健康ですごしたいという個人の願いと地域の福祉活動を教科に組み込むことで、卒業生は健常者として体の弱い人との交流、ボランテイア活動に参加。高齢者が元気なことが自治体の負担を少なくする。
・文化学科―知識を深め味わう文化教科を学びながら、郷土の風土と歴史、伝統行事を知る。卒業生がそれぞれの地元の伝統や暮らし方を研究し守っていくことで、まちの暮らしや年中行事が安定して遂行されることになる。
・園芸学科と陶芸学科―自分の庭の草花、菜園、果樹について学ぶ。自家に始まり、「緑のまちづくり」に繋がっていく。卒業生が多くなるほど街の緑が豊かになり、自然が大事にされるようになる。陶芸を中心にして、手作り技術が得意な人たちによる技芸のつながりを形成する。新たな地産品への契機となる。
「地域大学校」(2~3年が主)は、個人には豊かな人生と生涯の友人を得る機会となり、自治体は卒業生が多くなるほど「まちづくり・ものづくり」の人材が豊かになります。講座の講師も地元でまかなえるようになれば、旧来の老人クラブや生涯学習にはない求心力によって、それぞれの地域特性をつくることになり、将来のまちの構想も描けるようになります。「地域大学校」設立の遅速は暮らしやすいまちの差となるでしょう。(次は7月25日)
「S65+」ジャーナル 2011・7・15
堀内正範(カンファレンス・スーパーバイザー)