丈人論-「強い社会保障」とともに「強い高齢社会」を<4>ー

◎「平和団塊」の人びとへの期待 
 6月2日、「菅内閣不信任決議案」の採決直前の民主党代議士会で、管直人首相は「一定のめどがついた段階で若い世代のみなさんにいろいろな責任を引き継いでいただきたい」といい、辞任後には「お遍路」をとまでいったのには、高齢者のみなさんは二重にあきれたにちがいありません。
 首相であることの何よりの責務は、震災後にみずからが何かを成し遂げることではなく、政界をあげて国難に当たる体制をつくることにあります。それを求める国民の声に応え得なかったことに責任があるのです。また発言にみるとおり、同世代や先輩に力不足を謝して去るのではなく、「世代交代」をということで仲間の信頼を失うことになります。もうひとつ、首相を辞したら「お遍路に」ではなく、「単身でも被災地に」というのが筋というものでしょう。
 菅氏は昭和21(1946)年10月10日生まれですから、「団塊の世代」(昭和22~24年生まれ、約700万人)には入っていませんが、しかし戦後生まれの政治家のひとりです。昭和22年には鳩山由起夫、23年には赤松広隆・舛添要一、24年には海江田万里、25年には塩崎恭久氏などがいます。
 この戦後生まれ世代(本稿では昭和21~25年生まれを「平和団塊」と呼んでいます。約1000万人)をさし置いてなぜ若い世代に引き継がせようとするのでしょう。少人数の知名な方で代表させていただいて申し訳ありませんが、昭和21(1946)年には市川團十郎(俳優)、田淵幸一(野球)、猪瀬直樹(作家)さん、22年にはビートたけし(タレント)、尾崎将司(ゴルフ)、中原誠(将棋)、北方謙三(作家)、西田敏行(俳優)、池田理代子(劇画)さん、23年には高橋三千綱(作家)、五木ひろし(歌手)、上野千鶴子(女性学)、井上陽水(歌手)、森下洋子(バレエ)さん、24年には村上春樹(作家)、武田鉄矢(歌手)、高橋伴明(映画監督)、矢沢栄吉(歌手)さん、25年には舘ひろし(俳優)、和田あき子(歌手)、坂東玉三郎(俳優)、姜 尚中(政治学)、八代亜紀(歌手)さんなどなど。知識も技術も芸域も充実して、実力に誇りをもって「熟年期」を謳歌し、「高齢化する社会」の可能性を体現している人びとがいます。
 この60歳代になった約1000万人の「平和団塊」のみなさんは、先の戦争の惨禍のあと、ご両親によって平和裏に生きることを託されて育ち、先輩とともに復興・先進国入りを成し遂げ、わが国の「平和時代」の証となる「高齢社会」の体現者として暮らしています。それは先人が願いとした「日本国憲法」の平和主義とともにふたつながら平和の証であり、国家百年の計として21世紀の日本を輝かせる歴史的モニュメントなのです。「日本高齢社会」の形成は、そのプロセスを含めて国際的にも注目され達成が期待されています。「世代交代」をいう菅直人氏は、みずからの世代の役割をあまりにも知らなさすぎるのです。
「S65+」ジャーナル 2011・6・15 
堀内正範