友好都市・物産の絆-紙といえばの産地同士

紙といえばの産地同士

富士市―嘉興市(浙江省)   

「静岡茶とみかん」が名産の静岡県と「龍井茶と温州みかん」で知られる浙江省が、一九八二年四月に友好省県となったことは、自然の産物といったところだろう。富士市と嘉興市の友好都市提携は少し遅れて、嘉興市側からの提案ではじまったのだった。   

八四年九月に静岡を訪れた浙江省の友好代表団から、嘉興市と同じ紙の生産地同士で友好関係を結びたいという希望が出され、「紙といえば富士市」が当然の提携相手として話題となった。富士市の製紙工場の操業は一八九〇(明治二三)年にさかのぼるが、嘉興市にも一九二〇年に創業した民豊製紙工場があったからである。
さっそく八五年一月には、嘉興市の周洪昌市長から「友好提携をしたい」旨の書簡と富士市長一行招待の申し出が届いた。富士市側もすぐに対応して、同年五月には渡辺彦太郎市長を団長とする調査団が訪問した。翌八六年四月には周洪昌市長らが訪日した。
八七年一〇月には民豊製紙工場の生産力アップに関して企業診断の要請がなされ、富士市は八八年三月に中国民豊製紙技術診断チームを派遣している。 

両市は省県交流の進展とあわせて着実に接触を重ねて話し合い、友好都市提携を迎えた。八九年一月一三日、嘉興市から周洪昌市長を団長とする友好訪問団が訪れて、富士市民一千余が見守る中で、周洪昌市長と渡辺彦太郎市長が協定書に調印した。

嘉興市は、上海市と杭州市の間に位置し、杭州湾に面している。市の南端に名勝「南湖」がある。現代中国の誕生にとって重要な役割をはたした湖である。二一年七月、南湖に浮かぶ遊船の上で中国共産党第一回全国代表大会が開かれ、一二人の代表が正式党名や綱領一五条を決定したのだった。湖南省の毛沢東は書記として参加している。いまも湖上にはそれを記念して「紅船」が浮かんでいる。湖中の島には「煙雨楼」があって、有名な杜牧の詩「江南の春」を思わせる。製紙のほかに絹織物が盛ん。水稲、野菜類や、川や運河が交錯して水産物も豊かで、「魚米之郷」と呼ばれている。人口は約三三二万人。  

富士市は、駿河湾を前に秀麗な富士山を背に「雄大な富士山のもと 躍動するまち ふじ」が市のキャッチである。
紙・パルプ、輸送用機械、化学・電気機械などを主とした産業都市から、優位な立地を生かした知識集約型産業への転換を目標としている。人口は約二四万人。

富士市と嘉興両市は、友好都市提携の後、市の各部門、経済、芸術、女性、報道機関ほかの多彩な分野で年々、着実に交流を積み重ねてきた。環境行政での人的交流や意見交換も欠かせない課題である。もちろん民豊製紙の関係者による施設視察・懇談にも対応している。「富士市民友好の翼」による訪問も回を重ねている。とくに将来の国際社会に貢献する人材育成の一環として、「少年親善使節団」派遣や青少年受け入れに力をそそいでいる。五周年、一〇周年には「嘉興市物産展」を開催した。

一五周年に当たる二〇〇四年九月四日には、陳徳栄市長ら友好代表団を迎えて、富士市で記念式典がおこなわれた。嘉興市民俗芸術団による民俗楽曲や古典舞踊は来場者の喝采をあびた。陳徳栄市長と鈴木尚市長は、一五年の交流を糧に、両市の友好と協力の絆をより強いものにし、世界平和への貢献を誓う「飛躍の誓い」(騰躍之語)に調印した。(二〇〇八年九月・堀内正範)