地域生涯学習(シニア)大学校 調査研究

調査研究企画案
地域再生・発展の力は「地域大学校」の推進にある。
(仮)全国地域生涯学習大学校の現状と将来
長い期間にわたる「横並びの平等」の施策によって、全国の自治体レベルでの比較でみて際立って異なる分野は少ないが、そのなかで例外ともいえるのが「高齢者に対する生涯教育の実施」の分野である。
「生涯学習(生きがい教育)」が行われていない自治体はない。しかしこのレベルのものはあるとはいえない。なぜならそれは個人の「生きがい」に属する成果であって、社会を変える(新しくする)成果ではないからである。自治体が域内多数者の拠出する税金を、「個人の生きがい」に投ずるのは応急的な措置であって、本来その活動は民間に任せるべきことである。自治体が参画する以上、その成果は「地域社会」の発展に寄与するものでなければならない。そういう基本的意味合いにおいて、際立った差が生じている。
では比較の上で進んだ自治体といえるのはどこか。
現況では兵庫県をあげることができる。ご存じのように、県主導官民協働の「いなみ野学園」はひとつの実施例であるとともに、モデルあるいはシンボル的な存在といっていいだろう。その40年にわたる経緯(プロセス)は、健常な県民高齢者に社会参画のための知識や技術や生涯にわたる“学友”を提供してきた成功例を示している。
兵庫県「いなみ野学園」の実例に学ぶ
細部の検討は別の機会に譲るが、注目すべき点は「専門学科」の設定にある。この「専門学科」(「基礎学科」というところもある)と全員共通の「教養講座」のありようが上記した成果に関連してくるからである。
「いなみ野学園」には、健康福祉科、文化科、園芸科、陶芸科の「4つの専門学科」がある。実際の細部は大切だが、ここではモデルとしての一般性の面から整理してみたい。
・「健康福祉学科」―健康でありたい高齢者がもっている関心と暮らし方に含めて、福祉を組み込む。卒業生は健常な高齢者として体の弱い仲間たちとの交流、ボランテイア(支援)活動にも積極的に参加する。学んだ知識は、自分のためとともに社会的にも活かされる。それが本来の意味での「生きがい」となる。
・「文化学科」―郷土の歴史、伝統、文化を心ゆくまで学ぶことで豊かな内面的な満足を得るとともに“学友”を得て、卒業生はそれぞれの地元の歴史や伝統(行事)を研究し守っていくことになる。
・「園芸学科」―自分の家の庭の草花や果樹についての知識や技術を学ぶことに始まり、隣近所・公園など「緑のまちづくり」に繋がっていく。卒業生が多くなるほど街の緑が大事にされるようになる。
・「陶芸学科」―手作り技術が得意な人たちが実作をしたり関係する作品・意匠の集積にあたることで、自分と地域の人びとの暮らしを豊かにすることになる。
実際には「4つの専門科目」だが、論理的な整理では、手作り技術の内・外ということで、「園芸・陶芸学科」とすれば、すべての高齢者が関心をもつ「からだ(体)・健康」「こころ(心・志)・知識・目標」「ふるまい(技)・技術」の3範疇(学科)になる。
官民協働の運営主体を構成する
全国各地の「生涯学習大学校」の現場で、それぞれの学科で「専門講座」を学び、さまざまな「教養講座」を学んだ高齢者が、これまでのコミュニティと重なりながら新たな「地域高齢者コミュニティ」を成立させることになる。この地域活動のありようが「社会の高齢化」であり、総体的にみた姿が「日本高齢社会」であり、国が政策として期待する「個性ある地域の発展」となる。年々増加する健常(健丈)な高齢者の社会参画なしには、安心した「高齢期」も安定した「地域社会」もありえない。
まずは全国的レベルでの自治体の現状把握を行うことが必要だろう。その上で官民協働の運営主体を構成し、地域の特性を加味したカリキュラムを構成し、地域社会の発展に寄与する人材の養成を行う「地域生涯学習大学校」が設立される。これは明治期小学校・昭和期中学校に次ぐ公的教育改革として指向されねばならない。その設立の遅速は、地域発展の差となるだろう。            2011・11・28 記
地域生涯学習大学校推進会議 代表 堀内正範